エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング    vol.117 夏の本流ヤマメ/竹田 正

2021年05月28日(金)

仙台東インター店


 5月、爽快な新緑の季節。夏の気配を感じる頃になると、時折、稚アユの群れを見かけるようになる。陽光を浴びてきらきらと光り輝き、見るからに元気いっぱいである。そんな様子を窺っていると、自然に笑みがこぼれてくるのだ。たとえ天然遡上が多いとは言えない河川でも、アユ釣りが盛んな川であれば漁協によるアユの放流が行われるはずである。従って、ヒゲナガカワトビケラやモンカゲロウなどの水生昆虫はもちろんのこと、稚アユの存在も意識しながら釣りをすることが、本流の大物ヤマメ狙いの重要ポイントになってくる。
 初夏を迎えた梅雨入り前、本流域は田植えなどの農業用に取水されることもあり、水位が低下する事も多い。濁りや水温も含め、程良い水加減というのは特に重要で、フライ選びにも大きく影響を及ぼすのである。魚を誘惑するフライに必要な3要素であるアクション、アトラクション、イミテーション、これらのバランスを意識して、結ぶフライをセレクトするように心がける。


透明感のクロスフィールドと不透明のカネマラブラック。水色や光の加減で使い分ける他、ヒゲナガカワトビケラのラーバを意識するときはカネマラブラックを結ぶ。


グリーンワスプはヒゲナガカワトビケラのラーバやピューパを、モンカゲロウウエットはモンカゲロウやオオマダラカゲロウを意識した釣りのときに結ぶ。
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魅惑的な砲弾型の魚体。いつまでも、このようなヤマメが釣れる豊かな川であって欲しいと思う。

 6月、梅雨入り前や梅雨の晴れ間、照りつける太陽はカンカンと熱く真夏の様相となる。水温は適水温となってくるが、場合によっては15℃を大きく上回ることもある。瀬に入ったヤマメを、スティミュレイター等のヘアウィング・ドライフライで釣るのが、エキサイティングで楽しい季節の始まりでもある。この場合、ナチュラルドリフトよりもむしろドラグを活用して、積極的にフライを操作し誘い出す。しかし、それなりの大物ともなると、水面まで容易には出てこないものである。日中は強い光線を避け、深瀬の底や白泡の下にその身を隠してしまうようだ。従って、マズメ時の時合を意識し、魚が動く好条件に狙いを定めていくようになる。


大物キラーとして名を馳せるグレートセッジとチューブに巻いたギニアインブラック。ヒゲナガカワトビケラのアダルトが鍵になる時に頼りになるフライパターン。イブニングはもちろんのこと、夜明けの釣りにも出番が多い。


夕闇が迫る中、突如としてドスンというアタリがやってくる…。

 アユ・ヤマメともに、基本的には瀬の魚である。食性は異なるものの、それぞれの生活圏が交錯していると考えて良い。釣りをしていると、時に飛沫を上げながら、稚鮎を追い回しぎらりと輝くヤマメの姿を見かけることもある。こうなれば明らかにストリーマーを選択する状況である。
 本流のヤマメの目には、水生昆虫以上に稚アユが魅力的なエサに映るのだろう。稚アユの遡上量が多い年は尚のこと、その傾向が強く感じられる。己の優位性を保つため稚アユを飽食し、サクラマスと見まがうほどに一気に成長した魚体。銀の衣を纏った美しいその姿を見ていると、つい惚れ惚れとしてしまう。
 ヤマメにとってアユは上質なタンパク源であることは当然として、それが持つ成長ホルモンをも、積極的に体内に取りこんでいるように思えるのだ。
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バックテールアユは、ツーハンドロッドが功を奏すような川幅が広く水量が多い状況に向いている。チューブに巻いたクロスフィールドはウェットとしてもストリーマーとしても使えるスタイルに仕上げてある。ヒゲナガカワトビケラのアダルトとしても十分用を為す。

 ウエットフライで釣っている時より、ストリーマーで釣っている時の方がアタリは激しく鋭いことが多い。フライの泳がせ方とフライに対するヤマメの捕食の仕方の影響だと思う。フローティングラインを使ってストリーマーで探っていると、背鰭を出して襲い掛かってくることもそれほど稀ではない。そのような光景を目の当たりにしたとしたら…、釣り人として血が騒ぎ熱くなるのは、自然の成り行きである。


スコットランド  リバー・ツィードのサーモンパターンであるトッシュとポッシュトッシュ。トッシュをさらに優雅に仕上げたのが、ポッシュトッシュである。ブラックのボディーをミラージュティンセルに変更し、クリスタルフラッシュを追加、ジャングルコックのアイを纏っている。トッシュに比べ格段に、そのアピール力が向上しているといえるだろう。写真のポッシュトッシュは少しバランスを変えライムカラーで仕上げているが、オリジナルはイエローである。


世界的有名パターンのブルーチャームと ノルウェー リバー・ガウラのサーモン・パターンのロテノン。このロテノン、ローウォーター・高水温という厳しい条件下で効果があるという。フライの操り方にも何やらコツがある様である。タグの赤がアタックポイントになっているが、全体の色のトーンでは黒主調。並べて見るとブルーチャームと共通点を感じる。


ロテノンを明るく仕上げたイメージのガウラフルア。こちらはシルバードクターと共通点を感じる配色。良く釣れるフライは同じような特徴を備えているという事か。状況によりローウォータースタイルと使い分けをする。


同じポイントから立て続けに釣れてくることは珍しくない。縄張り意識が沢のヤマメ程強く無く、ある程度の群れで行動しているのだろう。

 7月ともなると、本流域はいよいよ水温が高くなり、それに伴い水の溶存酸素量も低下してくる。そのため本流に暮らすヤマメは、どうしても活性が下がり気味になってしまう。また、鮎釣りの解禁に伴い日中の本流域は釣り人で混み合う。夏至を過ぎ日が経つにつれ、ヤマメは後に控える産卵を意識するのか、行動に変化が現れるように感じられる。それらの理由から、7月以降、真夏の本流の釣りは、水温が最も下がる夜明けからのほんのひと時を大切にしたいのだ。また、適水温と溶存酸素の増加をもたらす雨がチャンスを生む。季節がら夕立ちや台風で程良い増水があった時は狙い目であり、減水の加減を見計らって釣行となる。釣るべきポイントが適水勢となる、わずかなタイミングを狙うのである。


リフレクターとスターダスト。ともにパープル&ブルーな印象のカラーリング。光量少なめの状況で使う事が多いフライ。水の濁り具合などで使い分ける。


体側や鰭に婚姻色が浮かび始めた、8月のヤマメ。夜明けと同時にグレートセッジにやって来た。

 本流育ちの大ヤマメが活発にフライを追うのはほんのひと時。経験的に、その時合は15分か長くてもせいぜい30分程度である。東の空が白み始める頃には川に立つ。強い瀬の下流に続く緩い流れ、懐のあるウケや駆け上がりが絡むポイントで、静寂を壊さないように、そっと遠くから静かにフライを流し始めるのである。狙い通りに事が運べば、本流ヤマメはやさしくフライを咥え、その十分に育った体躯に似合わない繊細なアタリを伝えてくることだろう。陽が差せば釣りは終了、鮎釣りの時間が訪れる。イブニングとは趣が異なる緊張感、これもまた楽しい夏の釣りなのである。


THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.117/ T.TAKEDA

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