エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング    vol.123 春を知る。渓の花々とイワナとヤマメ。/竹田 正

2022年04月28日(木)

仙台東インター店


 この春は久しぶりに雪景色の中でのスタートとなった。近年の解禁釣行を思い出してみると、川岸にしっかりと残雪があったのは2012年と2013年の春くらいで、ここ暫くは大した根雪も残っていないことが多かった。そのため岸辺までのアプローチに使うスノーシューなどはすっかりと出動する機会をなくし、ほこりまみれになっているくらいだった。

 さて、3月上旬のコト。待ちかねていた渓流釣りの解禁。解禁日からすでに1週間が過ぎ、週末もはさんでからの入渓となった。すでに多くの釣り人が訪れていた様子で、残雪に残されている足跡が、それを物語っていた。



ザクザクと残雪を踏み進む。


渓に立つとかすかに感じられる、水のにおい。半年近くの時を経て、懐かしい気分になった。


春の息吹、フキノトウ。採れたてでバッケ味噌を作った。一口含めば、春の香りで胸がいっぱいに。 


雪面を活発に歩き廻るカワゲラとその脱皮殻


まだまだイワナの動きは鈍いらしい。懐のある程好い流れをニンフで探っていた。いくつかのアタリを取り損ねていたところ、ついに#14ヘアズイヤーニンフの誘いに乗ってきた。なんとかシーズン初のイワナと対面することができた。


 4月上旬のコト。徐々に朝晩の冷え込みが緩むと同時に、日増しに日差しが強まるのを感じ始めた頃。「そろそろ雪代による大増水も治まっているだろうか。様子を見がてら、ちょいと出かけてみるか」と日当たりの好い渓に足を運んだ。

 晴天の下、気温は季節外れに上がっているようだった。渓伝いの林道を歩いていると、ジワリと汗ばむくらいの暖かさだった。岸辺のあちらこちらに白い花が咲き乱れているのが見えた。吹き荒れる春風にあおられ花々が揺れると、何やら春の賑わいが増してくる感じで、自然に嬉しさがこみ上げてきた。ついこの前までは静かな雪景色だった渓も、いよいよ本格的な春を迎えたということである。

 「この感じなら、渓魚たちも動き出しているに違いない。ニンフの方が良いかもしれないけれど、まずはこれで小手調べ……」
 グレイがかったオリーブダンのドライフライを選び出し、ティペットの先に結んだ。季節がら、ナミヒラタカゲロウやマエグロヒメフタオカゲロウの羽化を予測してのことであった。
 
 

いよいよ芽吹きの季節。


早速のご挨拶。ドライフライに出てきてくれたのは、ちびっこのヤマメ。「大きくなれよ」と流れに帰す。


雪代は冬の名残を洗い流していた。


日当たりのよい瀬から出てきた。このサイズが盛んにドライフライにアタックしてきた。


青空に黄色のもやがかかるのが見える。強風にあおられスギ花粉が舞う。どうにもこうにも目がかゆくなる。それを堪えつつも遡行していく。


水は輝き、流れは生き生きと。もうすぐ緑で溢れる季節になる。


渓の岸辺付近でよく見かけるキクザキイチゲ。雪解けの終わりと春の訪れを告げている。


少し風が収まってきた午後。日が傾き始めると魚が動き出した。


#12のパラシュートをバッサリと咥えてきた。少しばかり冬の名残を感じさせるヤマメ。


続いてイワナも出てきた。


深瀬の流心からバシッと出てきた。サビの抜けたヤマメを眺めていると、ますます春を実感し、気分は爽快になった。

 すると上流から釣り人が下りてくるのが見えた。入退渓に頃合いの良い場所なので、その釣り人はこのあたりから入渓していたのかもしれない。この先、釣れ続くかどうか、少しばかり怪しそうだ。
 ということで、本日はこのヤマメを釣ったところで気分良く終了、潔く退渓することにした。


 4月穀雨の頃のコト。三陸の山里にも桜前線が訪れ、梅も桜も同時に咲き誇っていた。まるで咲き始めるタイミングを心得ているかのように、申し合わせたかのように、スイセンや菜の花、他にも様々な花々が咲き乱れていた。里の渓からさらに奥へと上流域に潜り込めば、春の始まりを標す、また何かしらの花が咲いていた。それらを目にするたびに気持ちが高揚していく……。



里の桜は満開。田んぼの代掻きも始まっていた。穏やかな天候とのどかな風景の中、ゆったりとした気分に……。


里川の、その源流部にやってきた。雪代の洗礼を受けた後、渓は活気を取り戻していく。ナミヒラタカゲロウの姿もよく見かけるようになった。いよいよイワナ釣りも本格的なシーズンに入りつつあることを実感した。


ヒラキに出ていたイワナが#12のパラダンをバッサリと喰ってきた。薄い着色斑がある個体。


こちらも元気よく飛び出してきた。着色斑は無し。


このくらいのサイズが良く出てきた。鼻先まで斑紋あり。


こちらのイワナも頭部背部ともに斑紋が明瞭だった。イイカンジ!


あれま!ヤマメが出てきた。イワナとヤマメの混生する沢ではあるのだけれど。


またまたヤマメ。夏を過ぎれば結構釣れてくることがあるのだが……。この沢も上流へ進出するヤマメが増えてきているのだろうか?


その後はイワナが釣れてきて、ほっとした。


渓から上がる途中、薄い青紫に色付いたキクザキイチゲが待っていた。


その隣にはカタクリ。


ワサビもいよいよ花をつけてきた。


大好きな季節の始まり。おひたし4種盛り!コゴミにカラシナ、ワサビにシャク、クルミを添えて。それぞれに、春の香りがかぐわしい!春の到来を喜び、ありがたく頂いた。




この春、未だヒカリとの対面を果たしていなかった。翌日は下流部近辺の流れを選んだ。その入渓点、民家の軒先。この桜は満開まであと少し。


深瀬のウケから飛び出してきたヤマメ。


このヤマメも#12パラシュートをバッサリと。イイカンジ!


ついに来た!鈎に掛った瞬間に水面下でギラギラと輝き、すぐにそれと分かる。会いたかったよ!ヒカリ。


シャクの新芽。もう少し季節が進めば白くて可愛い花が咲く。

 調子良く釣り上っていたところ、急に魚からの反応が悪くなった。この辺りから釣り人が入っているように感じられ、少し水が不足しているようにも思えていたこともあり、ここで一度退渓することにした。様子を見に上流へ移動してみると、案の定釣り人の姿が見えた。さらに移動を続けると、あちらこちらに釣り人の姿が見えてきた。
 むむむ。それはそうだよね、すっかり春だもの。自分だけじゃない、みんな心待ちにしていたのだから……。

 今年も無事に渓流釣りシーズンのスタートを切ることができました。ヤマメとイワナ、春を知る花々、山の恵みに感謝!ありがとう!
  
THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.123/ T.TAKEDA

← 前記事 vol.122   目次   次記事 vol.124 →
ページトップへ