HOW TO

フェーズフリーな暮らしのすすめ

毎年のように発生する自然災害によって、私たちの防災への意識は高まりつつあります。しかしながら、具体的に何をどう備えたら良いのかを考えると、難しいというのが本音ではないでしょうか。

このたび、辰巳出版より「ラクして備えるながら防災~フェーズフリーな暮らし方~」を出版された防災士・キャンプインストラクターの CAMMOC(キャンモック)様に、災害時にも役に立つ「フェーズフリーな暮らし」のヒントについてお話をお伺いしました。

1.「フェーズフリー」とは

私達 CAMMOC はキャンプが大好きなママ3人が集まってできた会社です。普段は「キャンプのある暮らし」をテーマに地球の未来を創造する活動を行っています。CAMMOC として活動を始めて10年以上がたちますが、キャンプの道具や知識が防災に役立つことを実感した私たちは、2019年より防災に関する活動をスタートさせました。

仕事や家事、育児などで時間が無い方でも、無理なくできる防災・減災の取り組みは無いだろうか?日々の暮らしの快適さを保ちながらできる防災の取り組み。そんな思いからたどり着いたのが「フェーズフリー」の考え方でした。

日常(平常時)と非常(災害時)のフェーズの境目をなくし、身のまわりにある物やサービスを、日常時だけでなく、非常時にも役立つものに変えようという考え方、逆に言えば「もしも」の時に役立つもので日々の暮らしを豊かにしていこうという考え方、それが「フェーズフリー」です。

2.キャンプが教えてくれたこと

キャンプには防災に役立つ側面がたくさんあります。キャンプでは必要な道具を自分で選び、準備する必要があるため、何を持っていくか、何を省くかの判断をする経験が積まれます。また、自然の中(非日常)で過ごすことは柔軟な対応力を身につけることにつながります。例えば、上着で寒さをしのぐ方法や、ガスや水道が無い場所で料理をする知識、テントや寝袋、ランタンなどの装備や使い方など。予期せぬ状況や変化に対応し、自分で問題を解決するといった経験は、非常時にもきっと役に立つことでしょう。

3.フェーズフリーな暮らしのヒント

1)汎用性のあるモノ選び

私たちが普段から愛用しているアイテムには、1つで何通りもの使い方ができる「汎用性の高いモノ」という共通点があります。栓抜きやドライバーが一体型となったマルチツールなどの小物から、キッチン用品、洗剤、家具まで、気付けば身の回りが一石何鳥にもなるモノで溢れていました。

VICTORINOXマルチツール

なかでもシェラカップは、取り皿やコップなど食器として使ったり、焼く煮る沸かすなどクッカーとして、計量カップやおたまなど調理器具として、さらには小物入れにもなる優れモノ。
1つで何通りもの使い方ができれば、専用品をいくつも揃える必要がなくなり、コスト削減やスペースにも余裕が生まれます。そして、想定外のシーンにもきっと柔軟に対応できるようになります。

多目的に使用できるシェラカップはいくつあっても便利


何かモノを買う際には、「多機能」という文字に惹かれたり、「他にどんな使い方ができるかな」とあらゆるシーンを想像してから購入するようになり、以前より買い物での失敗がなくなったのも嬉しい変化です。

ラジオの中には、手回し充電、ライト機能、ソーラーパネル付、モバイルバッテリーとしても使える多機能なものも

2)防災を暮らしに馴染ませる

地震対策のひとつとして、家具の固定や配置は重要です。自宅や職場など、自分がよくいる場所の安全対策は万全に。とはいえ、賃貸なのに壁に穴を開けて固定したり、いかにもな転倒防止ポールが丸見えになっていたり、暮らしに合わないものや好みではないものを無理に取り入れる必要はありません。
防災もインテリアも妥協せず取り組みたい私たちは、いつも眺めていたくなるようなお気に入りを防災に当てはめていくようになりました。例えば、棚と天井の隙間に子供がお絵描きした段ボールを詰めたり、透明の滑り止めシートで見えない工夫をしたり、寝袋はお気に入りのクッションカバーに入れてリビングや車内に備えたり。

棚と天井の隙間に子供がお絵描きした段ボールを詰めて転倒防止
クッションカバーの中身にキャンプ用の寝袋を詰めておくと非常時に役立つ

こうすることで普段の生活空間に彩りを加え楽しみながら、非常時にも備えることができます。まずは、自宅に倒れたら危険な家具や飛んできそうな家電がないかチェックして、自分の暮らしに馴染む対策を考えてみましょう。

3)無理なく続けられること

防災は、一式備えたらOKというような一時的なものではなく、継続的な取り組みが必要です。一つ前でも紹介したように、暮らしに合わないことを取り入れたり、日常的な負担になるようなことは続きません。
取り入れ方も人それぞれ。防災バッグや備蓄品を定期的に見直せる人もいれば、できない人もいます。多くのコレクションに囲まれ安心を得る人もいれば、モノを持たずシンプルに暮らす人もいます。
まずは自分ができることから始めてみましょう。例えば、防災アプリをダウンロードして天気予報を見る感覚で日々チェックしてみたり、地域の防災訓練に参加してみたり。
おすすめは「防災ポーチ」を作って持ち歩いてみること。

外出先での緊急事態に対応できるよう、ポーチサイズにまとめたものです。自分にとって必要な備えは何かを考えるきっかけにもなります。

4)もしもを想像する

今ここで地震が起きたら、通勤中に電車が緊急停止したら、子供とはぐれてしまったら、あなたや家族は自分の命を守る術はありますか?
防災は重要だと認識していても、いつ起きるかわからない“もしも”を考えるよりも、慌ただしい目の前の“いつも”に流されがち……。防災を自分事として捉えるためにも、“もしも”を想像してみましょう。

ハザードマップから地震や津波がきたらどんな危険があるかをチェックして、その危険から身を守るために何が必要かを知ることで、具体的な対策が生まれてきます。
書籍「ラクして備える ながら防災 フェーズフリーな暮らし方」では、P.128にワークシートがあり、取り組むべきことに優先順位がついて整理しやすくなります。ぜひ体験してみてください。

5)周囲との関係性を大切に

自分ひとりでは解決できない緊急時にカギを握るのが、周りの人との関係性。家族や職場、地域、友人、オンライン上の繋がりなど、常日頃からの人間関係は備えの一つといえます。
自分と家族の命を守る「自助力」と、周囲と協力する「共助力」。これには自身のコミュニケーションスキルが必要ですが、なかなかハードルが高いと感じる方も多いと思います。

私たちが普段から大切にしている習慣は、自分も相手も気持ちがいいコミュニケーション。例えば、家族とどんなに喧嘩した日も「おはよう、いってきます」などの挨拶はしっかりする。忙しくて余裕がない時こそ、深呼吸して整理してから落ち着いて話す、など。
街の掲示板やSNSをチェックして、地域のイベントに参加したり、情報をシェアしたり、美味しそうなお店を見つけて入ってみたり。イベントがきっかけで地域コミュニティに参加し仲間もできました。
いざという時に助け合える関係性があれば、被害を最小限に抑えることもできるでしょう。

4.CAMMOC的 ローリングストック

1)自分基準のルールを決める

ストック場所や消費する順番など、自分や家族が無理なく続けられるルールを大まかに設定します。欠かせないアイテムが明確になるため普段の買い物もスムーズに。

2)キャンプや旅行でローリングストック

普段の外出時にも防災バッグ・ポーチを活用します。行き先に応じて必要なものをチョイス、使った分は補充することで中身が最新に保たれます。

3)手抜きを チャンスに変える

家事が億劫な時はレトルト食品やカップ麺の消費チャンス。洗い物が面倒なら缶詰やパックご飯をお皿に移さず食べたり、食器にラップを巻いて汚さないようにすると非常時の練習になります。

4) ローリングストックは徹底しすぎない

砂糖や食塩、トイレットペーパーや洗剤など、賞味期限・使用期限の表示がないものもあります。未開封で保存方法をきちんと守れば、ある程度は放っておいても大丈夫。制限がなければ気持ちもラクに。

5.非常時に気を付けたいこと

1)命にかかわることを優先

発電機や蓄電池がある場合は、医療機器や体温調節など、命にかかわるリスクが高いことから優先的に活用します。排泄を我慢すると健康を損ねてしまうためトイレ対策も重要となります。また衛生面も命にかかわる要素のひとつです。口腔シートやうがい用の水、ボディシートや消毒スプレーなどを備えておくと安心です。

2)ネガティブな状態に 振り回されない

災害発生時にはSNSなどを活用し、常に最新情報をチェックして行動することが重要です。受け身にならず、自分から必要な情報を求めて動きましょう。またその際には、情報が正しいものか、自分にとって必要な情報かどうかの取捨選択がポイントとなります。

流れてくる情報を鵜呑みすることがないよう気を付けましょう

3)心身に十分な休息を

災害時に避難所で落ち着いて休むことは難しいものです。また、大変な状況下で身体を休めることに抵抗を感じる方もいるでしょう。しかし、心身ともに健やかであることは復旧までを乗りきる一番のカギとなります。日中はできる範囲で運動や食事をとり、暗くなったら眠ることが基本。そして、一人で抱えきれない時は話を聞いてもらうなど、自らもSOSを出すことは、自分のためにも周りのためにもなります。

6.まとめ

防災士・キャンプインストラクターの CAMMOC 様に、災害時に役立つ「フェーズフリーな暮らし」のヒントについて、詳しくお聞きしました。ありがとうございました。

記録的な猛暑、毎年のように発生する台風や地震などの自然災害。私たちを取り巻く環境は日々変化し続けていることを実感します。アウトドアをレジャーとして楽しむだけでなく、日々の暮らしのなかで実践しながらうまく取り入れることが、いざという時の備えにつながります。

辰巳出版 CAMMOC (著) 

新著「ラクして備えるながら防災~フェーズフリーな暮らし方~」では、メンバーの方々の日常や住まい紹介記事、さらに実践的なテクニックやフェーズフリーな暮らしを続けていくコツなど、役立つ情報がぎっしりと詰まっています。ぜひ皆様もご一読ください。

ページトップへ