エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング    vol.126 風薫る季節のイワナ釣り/竹田 正

2022年06月24日(金)

仙台東インター店


 5月下旬のコト。前回の釣行以降、5月上旬からまとまった雨が降らない日々が続いていた。今年は全般に積雪量が多かったおかげで、なんとかここまでは順調な水況であった。しかし、夏日が訪れるようになると、ついに渓は渇水状態となってきた。平水時では渡渉が困難な渓でも、今の渇水状況であれば遡行がしやすいはず。ようやく足腰も渓歩きに慣れてきた頃合いだったので、ここは足慣らしのウォーミングアップを完了するべく、渓歩きが楽しい渓へ出かけることにした。

 釣行初日。滑落や落石の恐れなど、特に危険な個所と感じている難所は大滝を超える1箇所だけ、入退渓や遡行は特段の無理は無し、距離は長めで標高の高低差も大きめ、一段上がる度にポイントが続くという、釣り場としてバランスの良い沢に来た。
 沢沿いの斜面には葉を広げ始めたワラビがそこかしこに。その中を歩けばウェーダーが擦れる度に甘い香りが漂ってくる。サンショウの木は新芽をつけていた。その柔らかな新芽をひとむしりすると、爽やかでスパイシーな独特の香りが辺りを漂う。口にも放り込み、ついでにピリリと刺激も楽しむ。風薫る季節がやってきた。山の香を楽しみながら入渓点へ向かった――。


オリーブダンの#12パラシュートを結び釣りを開始。渇水のためヒラキやカタに出てきていない様子。落ち込み脇を狙う。


入渓するや否や、早速イワナからのご挨拶。イワナたちは機嫌が良いらしい。その後も1箇所1尾とポイントごと続けざまにキャッチ。私もご機嫌よろし、である。


落ち込みからの流れに乗ったフライに素直に出てきた。すっぽりとフライを飲み込んでいる。


ヒラキにイワナを発見。こちらの気配を悟られないように、ひざまづき姿勢を低くする。バックスペースの枝の配置を確認したら、フォルスは無し、一回でキャストする。イワナは日の光を浴びて白斑が浮かび上がった。


淵の中ほどで定位しているイワナが見えた。一発必中の一念でフライをキャストする。こういうポイントは1回しくじるとイワナは遁走してしまうことが多い。筋肉質でパリッとした印象、カッコイイ。

柔らかな緑光を浴び水面に光が躍る。空気までもが緑色に染まっている気がする。色白で美しく白斑が並ぶイワナと金イワナ。


瑞々しい苔に触れてみる。ふかふか。この感触、ホント気持ちが良い。


ここでは大岩を舐めるようにフライを流した。するとその大岩と水底の隙間に隠れていたイワナは、その陰から頭だけを出してフライを吸い込んだ。


澄んだ水に泳ぐイワナたちは、まるで宙に浮いているかのように錯覚する。ポトリと落ちたフライめがけてすっ飛んでくるが、見に来るだけのイワナも多い。釣れてきたのは金イワナ。


渇水の影響か。いまひとつヒラキのカケアガリやカタに出てきていないことも多かった。それでも一段上がるごとにイワナが出てきた。鈎に掛ると、イワナたちは皆元気いっぱい良く走った。その結果、逃げおおせるあっぱれ君も多かったのである。


カゲロウが乱舞していた。すかさず帽子を使って捕えた。タニヒラタカゲロウ スピナー ♀ 緑褐色の卵塊が腹から出てきていた。産卵行動が始まる直前である。時に16時30分過ぎ。そろそろイブニングライズが始まる頃だが、ぼちぼち退渓する時間。この後、日が暮れてくるまでに、このカゲロウは川面に卵塊を産み落とし次世代へと命を繋ぐ。水生昆虫が豊かな沢は多くのイワナを育むはず。


この日最後に釣れて来たイワナ。本日一番の大物だったのだけれど、特段に体が柔らかかったのが印象的。とろけるかのように掌の上でぐにゃりとした。




 2日目のコト。体のコンディションは絶好調、初日の釣り上りが良い準備運動になったらしい。足慣らしの仕上げに、この日は奥深い懐を持つ渓に入渓することにした。平水時でも釣り上りの遡行は可能であるが、渡渉できない箇所がどうしても多くなってしまう。そのため、遡行ルートの選択肢が増える渇水時が良い機会なのである。

 渓に降りるとすぐに渡渉。腰近くまで浸かってでも、ここで渡らなければかなり遠回りをしなければならなくなる。その後は暫く山沿いを歩き登り続ける。結構な急勾配で、すぐに息が上がり始めてしまった。時間はかかっても川通しで上がった方が案外楽かもしれないと思った。時折、辛くなってくると歩みを止めることになるが、そのような時は眼下の流れを眺めることになる。淵やそのヒラキに泳ぐイワナたちが丸見えである。当然の如く、釣りたい衝動がこみ上げてくるのであるが、これをぐっと堪えるのは実際のところ結構なストレスなのである。
 巻き道と獣道のアップダウンに渡渉と水線通し、これらを何回も繰り返す。すぐ手の届くところにいるイワナたちを横目に、後のご褒美に高揚感を抱きながら、清冽な流れを歩き続けた。
 遡行の開始から一時間が経ち、いい加減に一息入れたくなった頃。言わばこれが釣り開始の合図である。休憩がてらロッドを繋ぎラインを通し、前日に使ったフライをティペットに結んだ。
 さあ、我慢の時を経て、いよいよ「ロッドを片手に釣り上り」の開始である――。


水温は10℃、調子を見るため軽く小手調べ。すぐに結果が出た。いずれのイワナも躊躇することなく#12パラシュートをしっかりと咥え込んでいた。ここまで登ってきた甲斐があるというもの。


ヒラキのカケアガリで待ち構えていた。流れ来るフライを捉え、ゆっくりと吸い込んだ。まだ痩せているものの筋肉質で良く走った。これからたくさん食べて大きくなれ!


白泡の下手、2本の倒木の間で定位していた。良い棲家だと思う。フライを飲み込むほどの旺盛な食欲。


大岩の陰に隠れるようにしていたが、着水したフライめがけて猛進。ばっさりと飲み込んだ。虎視眈々と、隠れながらも流れ来るエサを待っていたのだろう。ここまで小さ目の白斑が散りばめられたような個体が多かったが、このイワナは少し白斑が大きめの感じ。良いイワナだ。


日が傾き始めると、ヒラキに出てくるイワナが多くなってきた。更に動きが活発になってきた。みんな元気いっぱい!


この日最後に釣れてきたイワナ。消え入るような細かな白斑が散在、パーマークは不明瞭で確認しにくい感じ。細くてとても柔らかな魚体だった。

 釣れ続いている時は、我を忘れてどこまでも釣り上がってしまうという、釣り人の心理。まだまだ空は明るいのだけれど、戻りに要する時間を考慮すると、早めに引き返さなければならない。毎度、結構ぎりぎりのスケジュールになりがちなので、この日は予定通り16時に退渓を開始した。戻りは少なくとも90分以上、休まずに歩かなければならない。疲労も考慮し、ゆっくりと途中で休憩を挟みながら、となると2時間は必要になる。
 下りは上りよりも楽なようでいて、気を付けないと事故を起こしやすい。そもそも滑るのが当たり前の渓歩き。とは言え、疲労の影響もあるし、下る力と重力のベクトルが落ちる方向に作用するため、上りに比べ足元が滑りやすく、滑ると思いの外止まらない。体の向きからしても転倒しやすいので注意が必要である。私自身、足の置き場に失敗し、何度も痛い目にあっている。


退渓途中のコト、この日もタニヒラタカゲロウの産卵飛行に出くわした。スピナー♂、尾毛の1本が脱落。時に17時。この後ルート選択を間違えて余計なアップダウンをやらかしてしまったが、暗くなる前に無事に帰着、足慣らし完了となった。


 さて、今回の釣行2日間、いずれの沢共々に渇水していた。それにも拘らず、意外にもイワナたちは神経質になっていることは無かった。むしろ高活性だったと言える。
 実のところ、この2日間、タニヒラタカゲロウの他、トビイロカゲロウ、ミドリカワゲラ、オオヤマカワゲラと思しきカワゲラ類の他にも、様々な水生昆虫見かけていた。しかも、釣りを終える頃や退渓を完了した時間帯以降に、これらの水生昆虫が共々に、それぞれに、圧巻ともいえる規模での群れで配偶飛行を始め、それに遭遇したのである。これらの配偶飛行の群飛を多く見かけたということは、ここ数日以内にあちらこちらで集中羽化が起こったという証である。数種以上の水生昆虫たちが、これだけの量で一気に羽化したとなれば、さすがに魚たちも放ってはおかないだろう。
 イワナやヤマメなどの渓流魚の主要なエサは水生昆虫である。カワゲラなどは「きれいな水環境が保たれている指標」とされ、それらの水生昆虫が数多く生息できる豊かな環境が、多くの冷水性渓流魚を育む必須の条件だと思う。渓を歩きながら釣りをしているとそのことを実感するのである。

 今回、ランディングネットの乾く暇が無いほど、たくさんのイワナと出会うことができた。良いタイミングで渓に入ることができたと思う。きっと渓のあちらこちらで、激しいイブニングライズが起こっていたであろうことは、想像に難くない。命が溢れる山と渓、イワナと水生昆虫に感謝!ありがとう!

THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.126/ T.TAKEDA
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