エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング    vol.115 2021渓流釣りシーズン開幕 ニンフで通した二日間のコト/竹田 正

2021年03月19日(金)

仙台東インター店


 二月中旬の激しい降雨は大水をもたらした。お陰で冬枯れの流れは一変したことだろう。澱んだ垢や木の葉は洗い流され、川床は輝きを取り戻していた。冷たく澄んだ水を湛えた流れは活き活きとしていた。ここ数年無かったほどの久しぶりの積雪も手伝って、雪代も同時に出ていたはず。春の訪れを待ちわびつつも、深い淵でぼんやりとしていた渓魚たちは、けたたましく鳴る目覚まし時計さながらの水勢に驚き、冬の名残から目覚め始めているに違いなかった。

 入渓したのは、民家と畑に囲まれた、三陸の里川。まずは小手調べ。ヘアズイヤーニンフ#12をティペットに結び、ガードレール脇のポイントに入った。右岸がコンクリートで護岸され、小沢が道路をくぐり通って流れ込んでいる、小さな淵である。風は強いが寒くは無い。気温7℃、水温は5℃。見えるハッチはユスリカのみ。良い釣りが出来そうな予感がした。
 まずは上流側の流れ込みから流してみる。めでたくの一発を期待していたのだがアタリは来なかった。沢水が流れ込んでいるコンクリートの壁際にキャスト、脇から差し込む小沢、その小さな小さな滝壺をトレースしてみた。「ニンフが流れに馴染んだかな?」と思った瞬間、目印の動きが止った。すかさずアワセると―――。


今シーズンの嬉しい一尾め、8寸イワナ。しっかりとニンフを咥えていた。カメラを構えると身をよじってにょろんと逃げて行った。

 続けて釣れてくるかと思いきや、アタリはそれきりだった。ここで粘りすぎると時間が足りなくなる。今後の釣行に役立つ情報が欲しいので、シーズンの初めはできるだけ広範囲を探っておきたいのだ。まだ釣れるのではないかと、後ろ髪引かれる思いだったが、場所を変えることにした。
 程良い流速と深さがある深瀬を見つけ、釣り上がりを開始した。するとすぐにアタリが出始めた。魚は居る。しかし、目印に明確な動きがあるものの、掛らないのだ。そこでニンフのサイズを#12から#14に結び替えてみた。


ぴっと目印を飛ばした、ちびこのヤマメたち。夏までにぐんと育って釣り人を楽しませてくれる。


素晴らしい!パーマークに乱れが無い。こういうヤマメは、ほんと、大切な存在。


サビの残ったヤマメ。堰下の落ち込みから出てきた。

 あいたたた…、シーズン最初の渓歩きは思いの外、腰にきた。ということもあり、この日はこのヤマメで終了。十分楽しめたことだし、満足の解禁となった。


ニンフパターン 茫洋感、光の透け具合を意識してタイイングする。

 2日め。初日に釣った流れにやってきた。上下流域に釣り上がりの区間を広げつつも、もう一度同じ区間を釣ってみることにした。度々こういう事をして、さまざまな実験と検証を行うことがある。すると、また新たな発見や課題が見えてくるのだ。興味は尽きることが無い。
 昨日よりも暖かく風も無い状況で、更に好条件な感じだった。時刻は10時過ぎ、日当たりの良い深瀬やヒラキでは、すでにライズしているではないか。思い起こせば昨日はヒカリが釣れてこなかった。釣りたい衝動をぐっとこらえる。「このライズ、もしかしたらヒカリかもしれないな~、待ってろよ~、後で釣りに来るからな~」と思いつつ、河原の石を踏み鳴らさぬよう、ライズを横目にそうっとその脇を通り抜け、さらに下流へと向かった。
 ぶっつけカーブの岩盤淵から釣りを開始。「程良い深さと流速、いかにも釣れそう」というポイントだったのだけれど、日当たりが足りないのか、ぴくりとも来なかった。暫く釣り上がるもアタリは無かった。
 入渓時にライズを見かけたポイントに辿り着いた。ヒラキと流れの筋、それぞれでライズしてる。少なくともこの流れに数尾は入っていそうだった。「これは頂きだぜ~」の状況に歓喜しつつキャストした。すぐさま目印が跳ねた。「あれ?掛らない?」頻繁にアタリが来るのに掛らないのだ。「昨日と同じなのかな?」考えを巡らせているうち、スレ掛かりで釣れてきた。


この日の一尾めと二尾め。ともにスレ掛かり。ごめんよ。

 なかなか掛らないアタリが続いた後の、二連続のスレ掛かり。「もしかすると…」ティペットに噛ませていたオモリを外し、ヘアズイヤーニンフ#14を#12に結び替えた。


すると狙いは的中。きちんと鈎掛かりするようになった。どうやらオモリを狙って喰ってきていたらしい。


次々と可憐なヤマメが遊んでくれる。時々ライズもする。「ドライフライに替えようか~、なかなかヒカリが来ないな~」などと思っていると…。


ついにヒカリが来た!会いたかったよ!まだ胸鰭には色が残っているけれど、背鰭はしっかりと黒く染まっていた。立派なサクラマスになっておくれ!


流れに合わせてフライサイズを替えたり、オモリを噛ませたり。ヤマメに交じってヒカリになりかけも釣れてきた。

 更に釣り上がっていくと、釣り人の姿がちらりと見え隠れした。どうやら、この上に連続する大淵を狙っている様子。邪魔することの無いように一旦川から上がり、上流へ移動、十分な距離を置いて再入渓した。


場所を替えての一尾め。ニンフが流れに馴染むや否や、ぱーんと目印を飛ばした元気者。


続けて同じ流れから二番手がきた。


手前側で二尾を釣ったので、次は一番奥の落ち込みにニンフを滑り込ませた。流れに乗る目印の動きが一瞬止まった。すかさずのアワセ。すると今度はイワナが来た。この眼差しに、私はもう、メロメロ。


またまたイワナ。さらに二尾が続けて釣れてきた。段々と釣れるサイズが小さくなる。ヤマメとイワナ、あるいはヤマメ同志イワナ同志であっても、それぞれに勢力図があり、エサ取りのポジションや順位にはっきりとした差がでるのが面白い。

 同じポイントでヤマメが二尾にイワナが三尾も釣れてきた。さすがにもう、これ以上は出ないだろうと思いつつも、ついついキャストしてしまうのだ。が、ついにアタリは止ったのである。今日はこれにて終了!潔く退渓した。


釣りの途中で見かけたワサビとイヌワサビ。山菜の季節も、もうすぐそこまで来ている。

 2021渓流釣り解禁直後の初出動にもかかわらず、沢山の魚達に出会うことができた。流れを読み、捉えて、水面下を探る釣りが楽しく、目印の動きも時に爽快で、結局はニンフだけで釣り続けてしまったけれど、ドライフライでも十分釣れそうだった。天候にも恵まれ、久しぶりに歩く渓は本当に気持ちの良いものだった。自然に感謝、魚達に感謝。ありがとう!


THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.115/ T.TAKEDA

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