エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング   Vol.113 2020渓流シーズン最終釣行、秋の彩。/竹田 正

2020年10月30日(金)

仙台東インター店


 「9月の終りは、どうしたって釣り人で込み合うし…、さてさて何処に入ろうか……」ある沢を思い出しては消え、また他を思い出しては消え…幾つも繰り返しつつ、過去の記憶を手繰り寄せながら車を走らせていた。高速道路を降り目的の川に向かう。
 釣り人が考えていることは皆似たようなものである。本流域沿いを上流へ向かっていくと、朝早いのにもかかわらず、ここはという場所には釣り人の姿が見えた。これといった決め手がないまま、川沿いをだらだらと移動を続けていると、特段の理由も無いのにある沢筋へ向かっていた。当然のようにこの流域にも、所々で車が停まっていた。そうこうしているうちに「秋色に染まった格好良いヤマメをまだ見ていない」との思いが強くなってきた。数年前のこと、この近くの支流に入ったことを思い出した。沢とその支流の出合いで、入口からほんの少しの遡行しただけで、型の良いヤマメが連発した記憶が甦ってきた。「まあ、ここまで来てしまったから、久しぶりに、こっちに入ってみるか」と支流沿いの枝道にハンドルを切った。
 地形図で見ると、沢の出合いを始点に上流の源頭までざっと8kmの距離、勾配などを考慮すると10km以上あるかもしれない。途中までは林道がついているので、行ける所まで、一気に上流域を目指した。幸いなことに、沢の入口付近を除き、その道中に釣り人らしき姿と車は何処にも見当たらなかった。これで入るべき場所が定まった。
 釣り上がる区間は4堰堤があり、落ち込み落差が続き小滝も幾つか点在する。渓相や標高からはイワナの渓に見受けられるのだが、ヤマメとの混生域である。秋ヤマメも釣りたいし、イワナも楽しめるとなれば、かえって好都合である。ポイントとフライを流す筋を選べば、どちらの釣りも楽しめるという訳だ。ここ数日間、釣り人が入っていないことを願いつつ、最下流の堰堤下から入渓した―――。


入渓点の堰堤下でのっけから出てきた尺ヤマメ。少し〈紫がかった鉄色〉に衣替え。

 入渓後の一投目、尺ヤマメからのごきげんな挨拶があった。今日は調子が良いのか!?と期待したものの、堰堤下ではそれっきりの無反応。入りやすい場所でもあり、ポイントを騒がせてしまったことも原因としてありそうなので、粘ることなく遡行を開始した。


堰堤すぐ上は少しの区間、緩やかな瀬が続く。次々とポイントにフライを打ちこんでいくと、ヤマメが釣れてきた。


日当たりのよい明るい瀬に似合う、明るく柔かな〈肌色〉のヤマメ。


こちらはいぶされたように、少し〈青黒い鉄色〉に染まってきたメス。掌にお腹がふっくらしているのを感じる。



その感触はエサを飽食した感じではない。ふわっとしている。いよいよ卵が育ってきているのだろう。


ミズの群落。〈あずき色〉のむかごを付けている。秋だな~。むかごはさっと茹でた後、出汁醤油で食す。いろいろな山菜があるのだけれど、ミズはほんと、有難い。

 ヤマメたちからの反応はそれほど多くは無かった。リズミカルにキャスティングを楽しみ、探りを入れながらテンポ良く順調に遡行。大岩を乗り越えると新たな景色が見えてくる。これもまた沢の釣りの醍醐味。今シーズン最後の沢歩きを味わう。遡行するにつれ、徐々に落ち込みと小淵が連続し、時々小滝や大淵が現れるようになってきた。こうなってくると、そろそろイワナが出てきそうな雰囲気である。


真夏は〈深緑色〉だった渓のトンネルはいよいよ〈黄緑色〉に。心なしか渓も明るくなってきた気がする。

 案の定、ついにイワナが出始めた。しかも小気味よく、ぽんぽんぽんと。落差を一段上がる度、ポイントごとに釣れてくる。こうなってくると、ノリの良いリズム感での釣り上がりとなる。堰堤や大きめの滑滝を幾つか越えてきたので、この辺りから釣り人が入っていなかったのかもしれない。


ちびっこだけれども、来年も釣り人を楽しませてくれる大切な存在。


いずれのイワナも、頭部鼻先まではっきりとした虫食い模様あり。


〈黄色〉みが強い〈金イワナ〉


このイワナは〈いぶしイワナ〉


これら二尾のイワナたちは、言うなれば〈いぶし金イワナ〉


ダイモンジソウ、その名のとおりのそのカタチ。〈純白〉可憐な花弁に〈黄色〉に〈桃色〉〈黄緑色〉と。線香花火を思い出した。渓に咲く花も見ていておもしろい。


暫くイワナの連続だったところで、ぽんとヤマメが出た。写真を撮り終え、釣り上がっていくと、オギの藪が立ちはだかっていた。流れも藪に覆われ、見事に塞がれていた。「里の川でもないのに、なんだろか?」がさごそと藪こぎしていくと4個目の堰堤が現れた。なるほど、合点がいった。

 堰堤下は絶好のポイントとは言え、周囲は伸びに伸びたオギの密林状態であった。バックスペースはほぼ無し、やっとロールキャストができる程度だった。
 キャストのために自分が前に出てしまえば、どこかに潜んでいる魚を追いやるのは確実である。流れ出しや手前の駆け上がりに魚の姿は見えないものの、念のためその周辺にフライを流すが、魚は出てこなかった。目を付けていたのは左岸の奥。堰堤の壁に藪がかぶさっている辺りが、どうもにも怪しい感じだった。そこに直接キャストすることは不可能なため、まずは流れ出しの左手水面に向けてロールキャストを行った。一旦ラインを水面に保留し、アンカー状態のそのラインを堰堤の隅に向けて一気にシュートした。狙いのポイントにフライがひたっと着水すると、水面が割れた!


ついに求めていた〈秋色〉が来た!〈朱〉や〈紅〉の〈飴色〉に染まったオスの秋ヤマメ。 


産卵行動が間近となった、大切な存在。是非とも、次世代へとその命を繋いでいって欲しいと切に願い、リリースした。

 最終釣行のその最後に、立派に成長したヤマメとの出会いが叶った。この上ない喜びを噛みしめながら、その見事な魚体を眺めていた。季節が終わりを告げていた。

 月日が流れるのは早いもので、記事の連載を始めてから10年が経ちました。フライフィッシングにまつわる「大切な何か」を思えばそれらを、釣りに出かけてはその時の様子を、これからも綴っていきたいと思います。さて、今シーズンも無事に終了。お世話になった山と渓に、イワナとヤマメに、自然に感謝!ありがとう!

THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.113/ T.TAKEDA
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