エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング    vol.104 令和元年5月の釣り。ヤマメとヒカリ。サクラマス。/竹田 正

2019年06月14日(金)

仙台東インター店


 5月上旬、大連休が明けてすぐのコト。今回の釣行は雨後増水引き水狙いである。チャンスを前に期待が膨らむ。夜中に仙台を出発し、現着後はタックルのセッティングをしながら夜明けを待った。川面の波立ちを見ると、ほぼ期待どおりの水量。気温は6℃、水温は10℃。こりゃ、いけるぞ~!と、夜明けと同時に川辺に立った。
 ひと流し目は特に緊張する。上流から下流へと下りながらキャストを繰り返し、30分程かけて流しきるのだが、ポイントの始まり部分、核心部の入口で根掛かりさせてしまった。えーい!ぎりぎりを狙いすぎたか!
 ミスを悔やみながら根掛かりを外した。気を取り直して再度流し始めたものの、気合いと集中力が途切れかけているのが、自分でも分かる。まずまずのキャストが出来た筈なのだが、核心部後半も何事も無く通り過ぎてしまった。ひと流し目の根掛かりは、やはりまずい。技術も精神力も、いろいろと修行が足りていないことを自覚する。
 そうこうしているうち、急かされるように、周囲は明るさを増してくるのだ。刻々と状況は変化していくなか、朝の2時間は4流しをしてアタリは無し。手がかりといえばヒゲナガカワトビケラくらい、という結果だった。
 体が冷え切ったので、一度川から上がり、朝食と休息をとる。少しの仮眠の後、水温が上がりかけた頃を見計らって再エントリーした。フライボックスを開けて見る。夜明けにヒゲナガカワトビケラのアダルトが沢山飛んでいた。その幼虫、黒くてしなやかに動くラーバのイメージでフライを探す。これかな?黒いマラブーを纏ったマラードスパイダー1inチューブを取り出し、ストリーマーに替えてティペットに結んだ。
 水が澄み始めていた。日差しがキラキラと川面を輝かせている。朝マズメの神秘的な雰囲気も良いが、強い日差しもスカッとして気分が良い。仕切り直しだ。朝の反省を基に、きわどく狙いすぎず、より丁寧なキャストを心がけることにした。
 ワンキャストごとに半歩程度下る。核心部の入口にさしかかる。にわかに緊張が高まる。ランニングラインを持ちあげて流芯の強い流れをかわす。フライが流れに馴染み、つーっとラインがスイングを始め駆け上がりに差しかかると待望のアタリ。キタ!ラインを張って合わせるとすぐにテンションが弱くなってしまった。アレ?バレタ?と思いきや、手応えは続く。ナンダ?ナンダ?もしやこの手応えは…。やっぱり!釣れてきたのは立派なヒカリ。これはこれで嬉しいのだけれど、マジで一瞬来たかと思ったじゃないか!という次第であるが、最初のアタリだけでいえば、場合によってはサクラマスもヒカリも一緒だよな、と思った。なんてったって、こっちはそのつもりの精神状態なのだから。


サクラマス狙いのフライに反応したヒカリ。体の大きさに対し大きすぎる大型ウエットフライをバッサリと喰ってきた。食欲旺盛でよろしい。パーマークがうっすらと浮かび上がっているが、胸鰭が透き通り、背鰭、尾鰭、脂尾れの先端がしっかりと黒く染まっている。海へと旅立つ準備。サクラマスになって無事帰っておいで。


この日のキャンプ飯。菜の花とコゴミの恵みあり。あっさりスパイシーに仕上げた菜の花パスタ&ソーセージ、決め手にレモスコを一滴落として。湯上りコゴミは、アツアツに塩を振り、クルミと一緒に食す。今シーズンは春になった途端に季節の進みが加速した感じ。菜の花もコゴミも次週はもう終わってるだろうな~、そろそろワラビだな~、などとと思いつつ、じっくり味わって頂きました。

 さて、5月中旬のコト。サクラマスシーズンもいよいよ終盤。前夜から明け方にかけての降雨に期待をかけ、雨が降りしきる中、川へと向かった。夏至が近づき日の出の時刻は随分と早くなった。仮眠をとる暇など無く、現着するなり釣り支度を終えて川辺に下りた。
 ちょっと土砂降り?予報よりも激しいじゃないの!じゃばじゃばと雨が降ってくる中、対岸際の緩い流れで跳ねる銀影が見えた。狙い通り、サクラマスが遡上してきているようだが、フライを上手く運び落としたとしても、立ち所に強力なドラッグが掛ってしまう。真上に立たなければ、釣りにならない。しかも一気に増水してきているようで、濁りが入り始めていた。
 あ~もう!タイミング、合わないな~。そんな状況で出くわしたのはこの魚だった。 


濁りがこの魚を呼んだのだろうか?ネットに掬いあげた瞬間は海から遡上してきたアメマスだと思った。良く見ると、頭の形や鰭の具合、色合いなど、海を経験している雰囲気が見当たらない。これは川の魚だ。上流で釣れてくるエゾイワナ同様に大きめの白斑、本流育ちの大イワナ53㎝。よくぞここまで育ってくれた。嬉しいね~。


 5月の最終週のコト。幸運なことに、この日も雨。夜半過ぎから明け方にかけての降雨。ラストチャンスに賭け、川へと向かった。お昼前、雨上がりを見計らって川に下りた。
 ひと流し目、ラインを伸ばしながらの予備キャストを終え、徐々に下りながら核心部に差しかかった。根掛かりさせぬように、大岩をかすめるイメージで緩やかにターン、ラインが駆け上がりを横切り始めるところでラインを張ると、どどんっと確かな手応え。やったぜ!イメージ通りだ。


ロッドを右に振り合わせるとドラグが引き出されると同時に水面が割れた。ついに来た!と思いきや、水面に出た魚はすでにグロッキー。アレレ?小さめのサクラマスにしても、ちょっと弱すぎるな。バレテしまわぬように、浮いてしまった魚を浮かさないようにしてみた。すると浮き気味の魚は流れに乗って岸に泳ぎ着いてしまった。あらあら。ラインをたぐって強引に引き上げたところで恐らくバレるので、お迎えに下って掬ってみると、あのアタリが出るのも頷ける、体高のある立派なヤマメだった。


小さな顔立ちに立派な体躯、パーマークに銀鱗の衣を纏うスーパーヤマメ。ポーラアンドシマー1.5inチューブをがっぽし喰っていた。顔つきはサクラマスの片鱗をうかがわせるが、鰭の具合は明らかにヤマメで、モドリでもなさそう。発育優良児のハバヒロ君。サクラマスではなかったけれども、これはこれで貴重な一尾。夏には40㎝を超えるところまで育ちそう。

 4月からおよそひと月、毎週サクラマスを追いかけていた。本命のサクラマスを手にすることは叶わなかったけれども、何より活き活きした流れで釣りを楽しめたことが一番。運が良かったのか、水に恵まれた。特に自分が雨男であるとの自覚は無いのだけれど。ホント、渇水続きで、ロッドを出すことすらはばかられる、そんなシーズンもあるのだ。
 さてさて。毎年行き会う地元の延べ竿名人の話を聞いたり、釣りを見みたりして勉強になったし、おいしい山菜の恵みもあったし、頼もしい魚達にも出会えたことだし。今シーズンはこれでOKかな。山に川に、水に感謝です。楽しかったよ!また来年、ありがとう!
  
THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.104/ T.TAKEDA

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