エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング    vol.100 2019シーズン開幕 すでにドライフライ!? 3月のコト/竹田 正

2019年03月29日(金)

仙台東インター店


 おきまりの三陸の沿岸河川に来ていた。橋の上から幾つかのポイントを覗いてみるが、雪代の出た気配は全く見当たらず、いずれの流れも生気が感じられない程だった。ここまで渇水しているのは珍しいだろう。ここ何年か、春先は慢性的に雪不足になっているが、この春は更に少ない感じがした。長期的にも水不足が心配なところであるが、3月中はまだ雪も降るだろうし、峠や谷筋に残っている僅かな残雪も解けだせば少しは回復してくるのだろうか。
 残雪がないことで入渓しやすいのは、それはそれでありがたいのだけれども、半年近く待ち焦がれた解禁である。期待に満ちたこの気分、高揚感をさらに煽りたてるには、少々雰囲気が物足りないのだ。増してこの貧弱な流れで釣りになるのか?まずは小手調べということで、いろいろ試しながら状況の確認をする必要がありそうだった。朝7時頃から下流域を始点にポイントを転々とした。本流筋のみならず支流も含め気になる流れを見つけては、ドライフライやニンフ、ウエットを流してみた。しかしヤマメもヒカリも見つからない。あるのは何処も先行者の足跡だった。解禁日から4日、土日をも挟んだのだから、まあ、仕方のないことなのだけれど…。


平日にもかかわらず、みんな頑張ってる。要所要所に釣り人の姿が。とうにお昼を過ぎた頃、辿り着いたのは上流部、支流の里川。日当たりのよい流れに入渓。ヒラキから深瀬、流れ込みと順に探りを入れていくと、ピッと目印が引き込まれた。会いたかったよ~。シーズン開幕の一尾めは格別の喜びを感じるのだ。小さくて、愛くるしい。


両岸ススキに囲まれたポイント。こういうところは良く釣れる。ポツンとライズ、すかさずニンフをキャスト。着水直後、ぱしっと目印が飛んだ。サビのない若いヤマメ。

   
ライズしているならということで、#14のパラシュートをキャストしてみたが反応無し。そういうことならと8Xティペットを継ぎ足し#22のシンプルなドライフライを結んでキャスト。綺麗に流れるとあっさりと食ってきた。ちびっこだけれどキッチリ選んでミッジを食ってくる。次に見つけたライズの主は#14のパラシュートをバッサリ食ってきた。こういう元気者も居る。雪代無しの渇水状況ながらも、早くもドライシーズンが来ているのか?


翌週。待望の雨が降った。水量は平水に戻りコンディションは良い感じ。民家前のこんな流れに入渓するとヤマメが連発。


ばしばし目印を飛ばしてくれて、そりゃもう気分爽快。大きめはサビが残り、ちびっこはぴかぴか。あっという間にツ抜けした。土手上からこちらの様子を見ていた民家のオヤジさんが「水、良ぐなったから、今日は釣れるべ!」と声をかけてきた。「んだ、雨のお陰!結構釣れた~」と私。「だべ。先週まで何人も来ったが、さっぱ釣れてながった。いがったな~。雨だな雨、こないだまでこの半分もねがったんだぞ、水」と言う。雨と共に魚たちが動き出したというところか。やはり流れは活きいきしていないと。


ワサビ見っけ!食べごろには少し早いけれど、初物!ということで数本摘んできた。途中の昼食に頂いた。ランチパック・ツナマヨにサンドすると、これがうまいのです。瀬音と共に食す、川の恵み。


時々ヒラキや瀬でも反応あり、サビの抜けた良いヤマメが釣れてきた。淵のヤマメはまだサビが強かったが、これはこれで貫禄を感じる。この日は晴れではあったのだけれど、突風が吹いたりみぞれになったりと、この時期らしく不安定な天候だった。一日ずっとニンフで通してみたが、ドライでも十分釣りになる手応えを感じ、やはり季節の進み具合は1~2週早いように感じられた。


川岸にクレソン。新芽を少し摘んできてキャンプの夕飯に。爽やかな辛味が気仙住田名物トリハラミの焼き肉にぴったりでした。これも川の恵み。


第三週。先週まではヤマメばかりでヒカリは見つからずという結果。とりあえずイワナの顔も見たくなり、沢の奥へ入ることにした。といっても里の川。民家はすぐ近く。ガードレール越しに沢を覗くと運良くイワナのライズが見えてしまった。こりゃ釣らねばならないと、下流から回り込んでいざ入渓。シャツにジャケット一枚で丁度良いという暖かさ、水温は6℃。ナガレトビケラらしきハッチもあり、まずは#12の黒いパラシュートを結んだ。ライズしたあたりにフライを流すと一発だった。まずまずのサイズ。そしてこれが門番だったのか、次に釣れてきたのは黒くて立派なイワナだった。僅かに尺に届かなかったものの嬉しい一尾となった。場荒れを防ぐため、キャッチしたイワナはすぐにリリースせずにネットに一時待機。するとこの後も#12ドライにイワナが飛び出し続けた。先週感じた季節感、早くもドライフライシーズンに入ったことを裏付ける結果となった。


あちらこちらにフキノトウ。今晩のキャンプ飯に5個ほど摘んで一品追加した。オリーブオイルで軽く炒めて焼き肉用のみそだれを付けて食べると絶品。口一杯、胸一杯に春の香りが広がる。摘みたては香り高く、ラガービールの芳醇さをブーストアップする存在だ。これまた川の恵み、旬の楽しみ。



翌日。様子を見に別の沢へ移動してみた。ヒラキに定位する数尾のヤマメが見える。しかも、なかなか良いリズムでライズを繰り返しているではないか。これはイタダキ!と思いきや、なかなかに手強く、ようやくミッジでかけたもののバラシてしまった。一緒になってライズしていた他のヤマメたちは当然沈黙…。やってしまった。しかし、本格的な春を感じるのはここからだった。瀬を釣り上がっていくとヤマメがばしっと出てくるのだ。#12のパラシュートを食い損ねるのもいるが、CDCパターンに手を出す程では無い状況だった。当然のこと掛るのはサイズが良い。サビの抜けた明るい色合いのヤマメたち。気分も高かまり、気温もぐんぐん上がり汗ばんできた。ジャケットを脱いでシャツ一枚になる。こうなると身軽でいい。まるで5月だよ。


春の陽光をいっぱいに浴びるヤマメとイワナ。肌が透き通って見える。美しい。こういう魚体を見ると、春が来たっ!て感じる。この沢もすでにドライフライシーズンに突入。


今日の昼食もツナマヨワサビサンド。一息入れて釣り再開。キラキラの沢をじゃぶじゃぶ、気分良く釣り上がっていく。この日ラストのヤマメは淵で群れていたうちの一尾。これを釣ったら他のヤマメは沈黙してしまった。この辺の反応が盛期と違うところ。このヤマメ、胸鰭がシュッとしていて良い感じ。そういえば、この日釣れてきたヤマメは皆サビていなかったっけ。




さて、3月最終週。畑や民家の横を流れる、ヤマメとイワナが混生している小沢に入渓。時々、わんこがきゃうきゃう言っているのが聞こえてしまう、のどかなところ。


早速ヤマメがお出迎え。ぽんぽんと出てきて時々掛る。そんな感じ。シビアな一尾との対峙も面白いけれど、乗らなくてもバラシても悔やまない、気軽な感じが心地よい。お~い、しっかり食べろ~、あれやこれや言いながら。


今夜のキャンプ飯に少し採集。少し開いてきたフキノトウが、ぶたのビールしゃぶしゃぶの薬味に欠かせない。ばっけ味噌も作っていただきました。


イワナも出てきた。早くもヒラキやカタに付いて、流れてくるエサを待ち構えている。中には、流れるフライを発見するや捕食場所のカタまで先回りして待ち構える魚もいて、高活性。わくわくの季節が始まる予感。


#14ブラックパラシュートに食いついてくれたグッドサイズ。まだスレンダーだけれども、これからたらふく食べて、ふっくらさんになるんだろうな。今週も沢山の魚たちと遊んでもらいました。

訪れるたびに、川は活気を帯びてきているのを実感したひと月でした。ありがとう!

THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.100/ T.TAKEDA

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