エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング     vol.97 THE COTTARELLI VISE/竹田 正

2018年09月14日(金)

仙台東インター店


 ひと際異彩を放つ、個性的なその出で立ち。画期的かつ斬新なアイデアが搭載されている究極のフライ・タイイング・バイス。ひと目見たときは、んんっ!なんじゃこりゃあ!今ではただただ眺めているだけで、イタリアの職人「フランコ・コッタレリ」の熱い思いが、うんうん、ひしひしと伝わってくる。



 その名は「T-Rex」、正に食いついたら離さないという感じのネーミング。軽く挟み込むだけで、このダブルのジョーがフック表面のメッキやペイントを傷めることなく大型フックをキッチリと固定してくれるのだ。「緻密で精密な丁度良い挟み具合」はバイスの要。ロータリー機構も秀逸の仕上がりである。



 さて、「コッタレリ・バイス」には幾つかのモデルが用意されている。ジョー部分のアッセンブリーである「ヘッド」をドライやウェット、ストリーマーフックに適したセッティングにしてあるのが「Standard」モデル。「ヘッド」はシングル、ジョーのサイズは「T-Rex」より小さく「Medium」が装着されている。



 「ヘッド」はヘッドが取り付けられている「フォーク」上でスライドすることができ、フックに合わせて任意のポジションに固定できる。ジョー本体に刻みや溝は一切無く、フラットであることがポイント。それらに頼ることなく確実にフックをぴたりと固定することができるのだ。



 ジョーのテンションコントロールも絶妙だ。ジョーの素材、焼き入れ硬度や研磨精度は当然のこととして、調整ノブのネジのピッチの細やかさ、フィーリングなど、各部の様々な作り込みが総合的な結果として、ジョーがじわりとフックを挟みこんでいく「緻密で精密な丁度良い挟み具合」その感触を実現しているのだろう。バイスにとって、これが真に求められる基本性能であり、これを実現することが最も難しいのだろうと思う。



 さて、サーモンの2/0、ドライフックの#16および#22を挟んでみた。それぞれこんな感じ。フックサイズに合わせて、ジョーの開き具合をいちいち調整する必要も無し。



 ロータリー機構はRENZETTI同様、ロータリーシャフトの回転軸とフックシャンクの中心軸とが一致するタイプ。いや、RENZETTI以上の精度で持って、フライの姿勢を正しく維持することができるのである。その際に精確なセンター出しを手伝ってくれる「センタリングゲージ」が装備されているのは非常にありがたい。これは使用しない時はロータリーシャフトに収納される。なかなかメカニカルで格好良いではないか。



 このロータリーシステムだからこそ「ボビンクレイドル」が真に活用できるのである。スレッドをハーフヒッチして「ボビンクレイドル」に引っかけるだけ。回転軸が一致しているからこそボビンとスレッドに邪魔されること無く、マテリアルを保持しつつフックを回転させながら、いとも簡単に正確なリビングやハックリングが可能になる。これなら誰にでもバランスが整った美しいフライをタイイングできるはず。



 ここまででも十分すぎるほど素晴らしいのに、まだまだ、こだわりは他にもあるのだ。重いパーツである「ヘッド」に対し、「ハンドル」にカウンターバランスを取らせるという心配りが、これまた心憎い。カウンター具合を調整できるようにハンドルの固定位置をスライドさせる工夫も盛り込まれている凝りようである。さらに、ロータリーシャフトにはドラグシステムも搭載されており、シャフトのスムーズな回転をしっかりとサポートしてくれる。



 写真中央、「フォーク」の丸型ブラスパーツはマテリアルクリップ。



 センターポールは角度調整ができるようになっており、各シャフトパーツはリンクを介して高さや向きの調整を容易にできるように工夫がなされている。クランプで机に固定する方式もグッド!各メーカーのカタログなどを見ると高級モデルがベースタイプで廉価盤がクランプ式というイメージがあるのだが、実際にフライを巻いていると、ベースタイプではバイスが不意に動いてしまう事があるのだ。クランプ式ならタイトにスレッドを絞っても動くことが無く安心である。各種の拡張パーツも用意されており、「ヘッド」と「フォーク」を取り外すと、チューブフライを巻くためのツールも装着できるようになっているのである。何だか全てがメカニカルでロボチックで、やっぱり格好良い。



 気になるところと言えばジョーを開くためにゴムパーツが使われていることくらい。全てを金属で作り込んでくれたらもっとロボメカチックで良かったのにな~、と思う。デザイン的にワンポイントの赤で引き立っているのかも知れないけれども。



 かれこれ20数年、私が愛用してきた相棒のRENZETTI PRESENTATION VISE。現在に至るまで何の不具合も故障も無く、バリバリの現役。シンプルながらこれ以上のバイスは無い、と今まで思っていたのだけれど。ああ、ちょっぴり君がかすんで見える仕上がりのバイスなのだよ、ごめんよ。made in Italy COTTARELLI VISE 恐るべし。たかが釣鈎を固定するだけなのだけれど、バイスはどこまで進化するのか。ペンチを使って毛ばりを巻いていた子供の頃が懐かしい。さてさて、思いを込めてフライを巻きあげ、格別な魚との出会いを果たしに出かけるとしよう。

  
THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.97/ T.TAKEDA

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