エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング     vol.86 春の里川/竹田 正

2017年04月15日(土)

仙台東インター店


 3月の解禁より上旬、中旬と岩手県南沿岸河川の様子を窺ってきた。今年は昨年に増して積雪が少なく雪代の気配は無し、どこの川も渇水状態という有様だった。また昨年9月の洪水の跡が痛ましいほど川岸が荒れている状況だったこともあり、かろうじて数尾のヤマメと一尾のヒカリに出会えたにとどまった。特に春先の好敵手であるヒカリを探してあちらこちらの実績ポイントをめぐっては見たものの、その姿は全く見えることなく、ヤマメを狙ってニンフを流し続けていた時にたまたま釣れてきた一尾はとても貴重な一尾となった。
 さて、3月も下旬となりいよいよ気温も上がり始めた。ここまでの釣行の結果は今一つだったこともあり、川の様子はどうなってきたかと気になる日々。ヒカリは動き始めただろうか?そろそろドライフライで楽しめるのではないか?様々な期待と思惑を携え、二日間の釣行に出かけることにした。 



 山の端から太陽が顔を出し、日差しが十分に差し込んだ頃を見計らって入渓。幸運なことに開始早々にコンディションの良いヤマメが出迎えてくれた。すでに初夏を思わせる立派な体躯、バシッとドライフライに出てきた。気分爽快である。



 他にもライズがあり、立て続けのキャッチに恵まれた。折角なのでツーショット。解禁からひと月ほど。長い冬を越したヤマメはせっせと餌を食べ、すっかり元気を取り戻していた。先日までの渋さはどこへやら。今日は調子が良いのか?期待が高まる。



 ヤマメの食事内容を拝見。大勢を占めていたのはコカゲロウのニンフだった。次いでブユとガガンボのラーバ。他にはユスリカのピューパやカワゲラのニンフ、トビケラのラーバ、マダラカゲロウやフタオカゲロウのニンフを少々。中心付近右下の大きいニンフはフタオカゲロウかな、といった春らしいメニューだった。



 この時ちょうどマエグロヒメフタオカゲロウのハッチに出くわした。水際での陸上羽化をするタイプのカゲロウだが風などの諸条件で水面を流れてくることもあり、私にとって春の重要種の位置付けである。春の里川でヤマメとマエグロヒメフタオ、この組み合わせが決まった時は#12ドライフライでの釣りが楽しめる。この時も正にそうだった。



 川を渡るときブユの群落が目に入った。早い流れが平らになり光の加減によってその姿がはっきりと見える瞬間があった。ばっちり撮影に成功。この虫たちも沢山のヤマメを育んでいるのだ。まだ繭は作っていない様子。



 この春初物のイワナ。白斑の感じなどはアメマス寄り。橙色の着色斑は無い。この辺りの川ではこのタイプかこれより白斑が細かいタイプが釣れることが多い。吻の雰囲気はまるでタラみたいな個体。イワナは個性が豊かで見ていてホント、面白い。



 天候にも恵まれ、4月中旬から下旬の気温。薄手のジャケットで釣りができると軽快そのもの。



 景色は冬枯れが続くが、所々でフキノトウやスイセンなど、徐々に春が顔を出し始めていた。渓魚も草花も昨年9月の洪水に負けずにがんばっているな~。



 民家が連なるガードレール下、護岸にトロ場というシチュエーション。水深のある沈み石の蔭からゆるゆると浮上してドライフライを吸い込んだ。人の生活圏とイワナの生活圏が重なっている。里のイワナ釣り。これもまた春っぽくて良いものである。



 白斑が細かめでかなり薄い着色斑がある個体だった。こんな瞳で見つめられたら、メロメロになってしまうよ。



 夕刻が迫った頃に釣れてきたこの日ラストのイワナ。釣行初日、期待以上の絶好調の結果となった。この日は沢山のヤマメとイワナに遊んでもらった。すっかりドライフライの季節になっていることを実感したのだった。




 さて、二日目の釣り。昨日の暖かさはどこへ?みぞれかあられか、という天候に一変。吐く息は白く、指先はかじかむ。冬の装備で釣りあがるとくれば、これまた春らしいと言えば春らしい。三寒四温で春が巡ってくる、その狭間に身を置いている事を実感する。



 そんな中でもヤマメとイワナは元気良く#12ドライフライに飛び出してきた。パーマークは7個、腹部の小斑が著しく多い。この辺りではこのような個体が良く釣れてくる。いよいよ春になってとてもお腹がすいている様子。まるで初夏のようにお腹がごろごろに張っているイワナもいた。



 意外なところで出くわしたヒカリ。淵に群れているので立て続けに釣れてくる。まだ胸鰭に色が残っているが背鰭は黒くなっていた。これから大海原へと旅立つ準備を整えているんだね。大きくなって無事に帰ってこいよ。サクラマスになってまた逢えることを期待して、元の流れにリリース。最近ヒカリを見かけることが、めっきりと減っているのだ。温暖化など気候の変化もあることだろう。今からわずか10数年の過去のこと、川の上流では高速道路が開通したり、ダム建設が行われていたりという経緯もある。人の生活が懸っていることだから、何とも言い難いのであるが、大好きな川や魚たちが変貌していく様子を見ているのは、やはり悲しいことなのである。



 パーマークは8個、端正な雰囲気のヤマメ。完全に体力を回復し、急流に付いていたことが頷ける、見事な鮮やかさだった。



 落ち込み脇の巻き返しでエサを待っていたイワナ。着色斑がやや強め。この辺りでは意外に出合えない色合いと言える。



 ほぼ乱れの無い落ち着いたパーマークの個体。このようなヤマメを見るとほっとする。今回は出合えなかったのだけれども、もっとまんまるのパーマークで、その個数が6個なんてのに出くわしたら、その喜びは相当なものなのだ。



 今回の釣行はこのヤマメでおしまい。キャンプの夕飯は採れたてのフキノトウを堪能したし、久しぶりに渓を歩き続けたし、二日間ドライフライで通せたし、もう十分。これにて開幕戦は終了という感じ。渓はいよいよ本格シーズンに向けて一気に活気づいていく。いやいやホント待ち遠しい。早く溢れる緑の中で釣りがしたいものである。

THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.86 / T.TAKEDA

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