エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング    vol.111 テーパーリーダー。経験と知恵と技術の賜物。/竹田 正

2020年08月07日(金)

仙台東インター店


 まるで生きているかのように宙を舞うフライライン。景色に映える鮮やかなオレンジ色はロッドに操られ、いつの間にか、その先端からしゅるるるるっと、遠くへと伸びて行く。リーダーの先に結ばれたフライは更に遠くへと運ばれ、ループが伸びきると同時に、ひたっと水面に浮かんだ。やがて…。

 フライラインに繋いで使用するテーパーリーダーは、様々な役割を担っている。まるでイヤホーンのコードか何かの様な太さもあるフライライン。これに直接フライを結ぶことは、当然ながらできない。また、魚の視線を気にすれば、余りにも目立ってしまう太さである。できるだけ、これからフライを遠ざけたい、と切に願う。更には、糸がらみなどのトラブルなく、気持ち良く、スムーズに、キャストしたい。そして、フライをもっとうまく流し、操り、もっと魚を釣りたい…等など。テーパーリーダーとは、ホント、実に良くできたもので、これらを合理的にかなえてくれる仕掛けなのだ。何気なく当たり前に使っているのだけれど、それこそ最重要、肝心要の存在、と言っても過言ではないと思う。
 あっさりと言えば、テーパーリーダーとは「太い糸を段階的に細くしていけばフライを結べる太さになり、それを長くすれば魚に気付かれにくくなる」というだけの、シンプルな仕掛けである。しかし、役目はそれにとどまらない。まるで鞭のように、重さのあるフライラインの運動エネルギーを、より離れた先端部分へ伝達し、それを受けて軽い部分は加速していく。一方で、その運動、つまりラインループの展開は、先端に進むに従い徐々に、運動エネルギーが減衰していく。更には、糸が細くなり、運動エネルギーが伝達しにくくなるおかげで、フライは程良い着水をするようになる。
 言ってしまえば、このとおりなのであるが、ラインループの摩訶不思議な現象、私がこれを目の当たりにしたのは、40年くらい昔のこと。生意気盛りの中学生の時だった。まるで無重力状態にあるかのような振る舞いを見せるラインループを見て「フライフィッシングって魔法みたいだ」と思ったことは、未だに忘れられないのである。

 さてさて。フライラインの推進力をスムーズにフライまで伝え、遠くの狙ったポイントにフライを届け、楽しく釣りができるのも、現在の優れたテーパーリーダーのお陰なのだ。もちろん市販品に飽き足らない釣り人は、好みの糸を繋ぎ合わせて自分流のリーダーを自作するのである。昔の教科書には大抵、ノッテッドリーダーの作例が紹介されていた。私もそれらを参考にしながら、いろいろと手作りして楽しんでいたこともあった。そこから思うのは、結び目の無いテーパーリーダーは実に画期的ということである。
 私に、フライフィッシングがすっかりとり憑いた頃のこと。大ベテランの先輩から聞いた話。「昔はリーダーの巻き癖を取り除いている時なんか、テーパーの終わりでティペットが切れてしまうのがしょっちゅうで。安心して使えなかったから。あらかじめティペット部分は切り捨てて、そこに繋ぎ直すのは当たり前のことなんだ…」ナルホド。
 高度な技術が確立されている現在に比べ、恐らくは、均一な太さの糸を作るだけでも、まだまだ大変だった頃の話である。当時、釣り糸メーカーにとって、テーパー構造を安定的に作り出すのは大変なことだっただろうと、お察しする。
 釣り糸として、簡単には切れない強さは当たり前として、その太さから細さ、張りやしなやかさ等など、釣り方に合わせてそれなりのものが欲しい…。なんともわがままな要求であるが、テーパーリーダーとはそういう存在なのである。そこで釣り糸メーカーは要求と期待に応えて、テーパーリーダーの素材やテーパー構造などに様々な工夫を凝らすことになったのだろう。現在、沢山の種類が市販されているのもそれが故である、と思う次第である。

 
 さて、この春。VARIVASから新しいテーパーリーダーが発売された。通常のリーダーはバット(付け根、根元)部分から先端部分に向けて一方向に向かうテーパー設計となっているが、このリーダーはリバースドテーパー(逆スラント、逆テーパーとでも言うべきか)を採用している。つまり、バットから始まり、通常は細くなっていくところが、あろうことかテーパーが太くなっていくのだ。そのテーパーに続いて従前どおりの細くなるテーパーが施され、均一なティペット部へと繋がっていく設計である。つまり前方重心、ウェイトフォワード構造と言える菱形イメージでテーパーがデザインされている。その配置や緩急により、ループの展開やティペット部分のターン性能など、それぞれに特徴を持たせ、製品化されている。
 そのラインナップは、「渓流用 プロドライFHT 11ftならびに14ft、IWIバージョンFHT 16ft」 「止水用 エキスパートスティルウォーターFHT 14ft」 「ソルト用 レコードマスターSW FHT IGFA 12ft」 「ダブルハンドロッド用 DH/サーモンFHT、DH/サーモンTAT、DH/サーモンSST(DH/サーモンシリーズは全て18ft)」 で全てナイロン製での展開となっている。

 能書きはさておき、画期的な新型テーパーリーダーと聞いては試さずにはいられなかった。早速DH/サーモンシリーズとプロドライおよびIWIバージョンを実戦投入したのは、言うまでもない。

DH/サーモンFHT(フロントへービーテーパー)
 全長が18ftと長めであり、なおかつティペット長は約5ftもあるスペック。フライラインに結びながら「う~ん、生のリーダーでこれは結構長い。果たして、このリーダーをちゃんと扱えるのだろうか」という疑念を抱いた。しかし、無駄な心配だった。その疑念はただの一投で払拭されたのである。
 キャストアウトしたフライラインに続いて、長いリーダーとティペットはチューブに巻かれた重い大型ストリーマーを見事に運びきった。そのターンはアクセルが掛る感じで、思っていた以上のキャストフィールに感嘆した。むむう。何とも、実にパワフルかつスムーズなリーダーなのだ。
 実のところ、ターンの強さが欲しい状況ではフロロカーボンリーダーの世話になる事が多いのだが、一番のお気に入りだったリーダーはすでに市販されていないのである。そのため頼りになる次なるリーダーを探していたところだったのだ。
 リーダーの展開していく感触を確かめながら暫く釣り下っていった。キャストを続けていくと、まるで渓流ドライフライ用ロングリーダーティペットの様なターンの仕方をすることがあったり、リーダーの中程が水面に向かって下がったりするのが気になり始めた。しかし、シュートの高さなど、投げ方を調整しているうち、この問題は慣れてしまえばなんていう事は無かった。
 むしろティペットが長いお陰で、フライの泳ぎはよりナチュラルになりそうであるし、サクラマスを驚かせることも軽減されるに違いない。泳ぐフライの位置や沈み具合など、自分の感覚が慣れてくると、その使いやすさが見えてきた気がした。

 
 常に風が強く吹く春。大型ストリーマーのキャストに難儀するのは、よくあること。特にロッドハンド側の強い向かい風の時は、たとえスペイキャストであっても、フライが自分に向かってすっ飛んでくることがある。正直言って結構怖いのだ。
 釣りをしていると、案の定その状況になった。常套手段ではあるが、ティペットを切り詰めて対応してみた。するとFHT構造のお陰でアンカーが効きやすくなるのか、ティペットを詰めたことで強いターン力が更に効いて、意外にもスムーズに投げられたのである。
 またまた、ううむ。これまで使用してきたリーダーに比してこの結果。相反する要素が絡み合うリーダーの役目と、それらを具現化するテーパー構造を思うに、これはもう、目から鱗である。リバースドテーパーのウェイトフォワード構造の効果、技あり!次世代リーダー、もう、これは侮れない。

 もちろん、TAT(トライアングルテーパー)とSST(スペイシェイプテーパー)も試してみた。FHTに比べTATのループの展開スピードは緩く、SSTはさらにマイルドなフィーリングだった。SSTは従来のリーダーと比べ、あまり違和感無く使えると思う。しかし、私のお気に入りはFHTである。強力なターン力を持ちながらもバットが細い。今までのサーモンリーダーはバットが太いのが当たり前であった。その細さおかげで結びやすく、ノットが小さく作りやすいという利点は、ホントありがたいし、実戦的であると思う。


 
プロドライFHT IWIバージョンFHT
 初夏の渓流で、イワナ釣りにプロドライFHTを、ヤマメ釣りにIWIバージョンFHTを使用してみた。サーモンリーダーで感じていた通り、予想通りにFHT構造の恩恵を受け、キッチリとターンしてくれた。狙いが決まりやすい上、長めにセットされているティペットのお陰で、ドライフライの流れ方も至ってスムーズだった。きっとニンフの釣りにも使いやすいと思う。
 ティペット部は、プロドライFHT11ftは約3.3ft、14ftで約5ft、IWIバージョンFHT16ftでは約6.5ftとなっており、ティペットを追加せずとも使用できる十分な長さである。
 状況に合わせてティペットを足すのではなく、短くするだけ。手間がいらない。基本的にこれが良い。もちろん、足りなければ足しても良い。また、繋ぎ目が無いということは、結びによる強度低下を招かないことはもちろんのこと、引っかかりや絡みの原因も無いということ。更に、夏場になれば厄介に感じる絡んだクモの糸の除去も容易い。釣り人によってはティペットの結び目で、その重さやティペットの固さの変化が気になる人もいることだろう。結び目が無いことで、実に様々な利点が生じるのだ。
 ティペットをわざわざ結び足さずにそのまま使えるということ。これこそ実戦的といえる。

 
 ロングテーパー設定リーダーの、するする舐める様なループ展開も実に気持ち良いものであるが、展開していくリーダーがティペット部分ですっとターンする感じのプロドライFHT14ft。この性能、小渓流での倒木や枝のクロスバー、樹木や岩のオーバーハング下などに、いとも簡単にフライを送り込める。これにはホント驚いた。そういうスポットを好んで狙ってしまう自分にとって、この性能は心強いのである。

 と、まあ、ここまで書いてしまうと、ベタ褒め状態であるのは否めない感じになってしまった。私自身、それを否定しない。要は使い心地が好みかどうか、と言うところ。
 今のところ、これらのリーダー、これと言って困ったことや不具合は何も無い。ということで、今後も更に使い込んでその実力を見てみるとしよう。

 
 実は、過去にも、リバースドテーパーを採用しているリーダーが存在していたのである。しかし、私の知る限り、それらは渓流用のサイズのみであった。また、フライラインにおいても、ベリー部分から細くなっていくフロントテーパーがまた太くなり、再度細くなるというテーパーデザインの製品もあった。またまた、リアテーパーに続きすぐにフロントテーパーへ移行するウェイトフォワードデザインのフライラインもあった。それらは個性的な存在だった。実際のところ、私も当時それらを使い楽しんでいたことも申し添えておく。

 さて、道具の進歩、進化と言っても、正直申し上げて、フライフィッシングの道具は、概ねすでに完成されているものばかりで、画期的なモノはそうそう出てこないものと思っていた。いや、しかし。なんの、まだまだ、これからだぜ。という感じ。たかがリーダー、されどリーダー。肝心要の仕掛け。これぞ経験と知恵と技術の賜物。
 良い道具に出会うと、何やら自然に、嬉しくなるものである。モノ作りニッポン、ガンバロ~!

THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.111/ T.TAKEDA

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