エッセンス オブ フライ フィッシング & エッセイ オン フライ フィッシング     vol.90 いろいろなイワナ。カワサバ。/竹田 正

2017年10月22日(日)

仙台東インター店


 渓流を釣り歩いていると様々なことに出くわす。特にイワナについては不思議なまでのその多様性に驚かされることがある。以前、vol.59においてイワナタイプのカワサバを紹介したことがあったのだが、今シーズンはヤマメタイプのカワサバと出合った。また、これらカワサバが生息していた同水系のとある源流部では、まるでオショロコマを思い起こさせる斑紋と体色を持つ個体とも遭遇している。ひと口にイワナと言ってもその体色は様々で、今回のvol.90ではイワナの斑紋と体色の個体差を併せて紹介したいと思う。
 三陸海岸には河口付近からヤマメやイワナが釣れる河川もある。その急峻な流れで過ごすイワナとヤマメたち。このような環境は交雑種を生み易いのかもしれない。とは言っても実際に目にするのは珍しいことなのだ。学生時代、この交雑種のことをカワサバと呼ぶのだと、先輩から教わった。日本各地を見渡してみると、サバ模様のみならず、無斑や流れ紋のイワナが高頻度で出現する沢も報告されており、イワナの多様性はどこまでのものなのか、その興味は尽きないのである・・・。



イワナとヤマメのハイブリッド。交雑種と思しき個体。まさにサバの模様である。形態はイワナそのもの。同じ淵にはこの個体の他にも数尾のカワサバが泳いでいた。



こちらがヤマメタイプのカワサバ。他のヤマメに交じって釣れてきた。



私が釣り歩く三陸沿岸河川。沢で釣れてくるイワナはこのタイプが多い。



深い淵では体色が濃く黒っぽい個体が釣れてくる。



うっすらと消え入るように細かな白斑が散在している固体。着色斑は無し。



画像では判り難いのであるが、薄い橙色の着色斑が認められる2個体。私が釣り歩く範囲では、この辺りで橙色斑点を持つニッコウイワナタイプは意外に出会えない色合いである。



右の脇腹に鮮やかで明瞭な橙色斑点がひとつ。体中見回しても他に着色斑は無かった。なんとも面白い個体である。



着色斑は無し、白斑のみ。細かい白斑と大きめの白斑が混在。背部も白斑で虫食い状の斑紋は極僅か。



こちらも着色斑は無し。白斑は特に大きく少なめで綺麗に列をなしているところが特徴的な個体で珍しい。背部は虫食い模様。落差約10mの魚止めの滝を越え、小滝が連続する源流部の、沢幅1mにも満たないような細流で釣れてきた。太古の時代、魚止めの滝ができる前に海と往来していたアメマスの末裔なのだろうか。いやおうにも想像力が掻き立てられる。



まるでオショロコマを思い起こさせる鮮やかな朱点を持った個体。これが謎を呼ぶ。こんなこと有り得るのか、と思いつつも、まさか、オショロコマの末裔と思しき系群が生息しているのか?などと想像を巡らせてしまう。



後日、またも同じ沢に出かけ、雨が降る中で探釣を続けた。あろうことか、またしてもオショロコマタイプが釣れてきた。前出の個体よりも更に色彩鮮やかな体色が印象的だった。たまたま変わり種の体色に出くわした、という訳ではなさそうである。謎が謎を呼ぶ。これはロマンである。これら2尾のイワナが私に語りかけてくる。これは一体何を意味するのだろうか。

 アルプスイワナ(アークティックチャー/ホッキョクイワナ)と呼ばれる系群のルーツを辿ってみると、カムチャツカやシベリア奥地のタラネッツイワナ、幻とされるストーンチャーが報告されている。日本ではオショロコマなど北方系イワナとともに、地球上北半球で最も南に生息するイワナの仲間であるニッコウイワナの系群を主だった釣りの対象としている。
 イワナの分類と系統樹の作成は、これまでの研究でも諸説はっきりとした決め手は無いように見受けられていたが、遺伝的な系統ハプロタイプの研究によって、なる程と思わせる結果が得られるようになってきている。興味のある方はぜひ一度調べてみると面白いと思う。河川の最上流部に生息しているイワナたちは氷河期時代からの末裔と考えられており、これには異論をはさむ余地も無いだろう。
 現在に至るまで悠久の時を経て種を存続し、それぞれに進化を遂げているイワナ達。まだまだ釣ったことがない、見たことも無いイワナたちがいるとなれば、釣りの対象魚として興味が尽きないのも当然と言えば当然なのである。ああ、全国のイワナたちを相手に釣り歩いてみたい。お休みくださいな。

THE ESSENCE OF FLY FISHING & THE ESSAY ON FLY FISHING vol.90 / T.TAKEDA

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