国境の島「対馬」からの手紙
2026年04月01日(水)
いつもWILD-1をご利用いただき、誠にありがとうございます。WILD-1広報担当です。
私たちは「自然を愛し、自然と遊ぶ」ことを提案するアウトドアライフストアとして、日々皆さまに優れたギアをお届けしています。しかし、私たちが愛する「フィールド」が今、どのような状況にあるのか。それを肌で感じるため、2026年3月に長崎県対馬市で開催された「対馬スタディツアー」に参加してきました。
「国境の島」対馬で目撃した、消費社会の歪みと、そこから私たちが踏み出すべき一歩について、レポートをお届けします。
1.絶景の裏側に積み上がる「負の遺産」
対馬の海岸線に降り立った瞬間、言葉を失いました。島の西岸に位置するクジカ浜、遠目には美しく透き通った対馬の海ですが、一歩海岸に足を踏み入れると、そこには色とりどりの、しかし無機質な「ごみの山」がどこまでも続いていたからです。
直径1メートルにも及ぶブイ、漁網、ポリタンク、ペットボトル、空瓶、空缶、洗剤容器、さらにはドラム缶まで。無数の漂着ごみが、浜を埋め尽くしていました。いや、風で飛散したごみが浜だけでなく海岸から数十メートル奥の崖の上にまで及んでいました。そしてごみのラベルなどから、その多くが海外から流れ着いたものだということがわかります。
対馬にこれほど多くの海洋ごみが漂着するのは、島の立地や海流などの地形的な要因によるものです。東シナ海から日本海へと流れる対馬海流は、日本の九州と朝鮮半島の間の狭い海域、すなわち対馬海峡で流れが集中することになります。まるで砂時計のくびれた部分の様に。そして総距離915キロメートルにも及ぶ対馬の海岸線は、その大半が複雑に入り組んだ「のこぎり状」の入り江が続くリアス式海岸です。
その結果として、クジカ浜をはじめ、対馬には年間約3万から4万立方メートルとも推計される膨大な海洋ごみが漂着します。これは、実に25メートルプール約100杯分に相当する量です。急峻な地形が多いために重機によるごみの回収は難しく、対馬市やボランティアの方々の活動により回収できるのは、約8千立方メートルと全体の2割程度というのが現状です。
また、ごみの山の上に立った時、足元の感触が気持ち悪かったことが忘れられません。フカフカと柔らかく、砂を踏んでいるような感覚ですが、実は細かく砕けたプラスチックごみの破片、いわゆるマイクロプラスチックが堆積し、白い地層のようになっていました。 紫外線や波風によって劣化したプラスチックは、一度細分化されると回収はほぼ不可能といわれています。これは人類の痕跡が地質として残る時代の象徴であり、まさに私たちが後世に残してしまっている「負の遺産」そのものでした。
2.アウトドアライフストアとしての責任
ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)といった合成樹脂、つまりプラスチックは軽量で耐久性が高く、私たちが販売している多くのアウトドアギアの主成分でもあります 。
対馬の漂着ごみの大半はプラスチックごみ、いわゆる「オーシャンプラスチック」です。海流にのって、東アジア全域、そして日本国内からも流れ着いたものです。しかし、クジカ浜でゴミを拾いながら痛感したのは、「これは他人の出したごみではなく、私たちが市場に供給している価値の成れの果てかもしれない」という罪悪感に似た葛藤でした。
回収されたごみの「その後」を学ぶため、対馬クリーンセンター中部中継所を視察しました。ここでは、人の手によって回収されたオーシャンプラスチックの一次処理を行っています。例えば、発泡スチロールごみからスチレン油を生成したり、プラスチックごみをリサイクル資源として活用できるように破砕処理を行う等の処理です。しかし言葉にするのは簡単ですが、オーシャンプラスチックを再資源化することは容易ではありません。
長期間、紫外線や水分そして波浪などの物理的な衝撃に晒された「オーシャンプラスチック」は、素材としての強度が著しく低下しています。回収→分別→洗浄を行ってこれを再生するには、通常のプラスチック再生よりも莫大なエネルギーとコストを必要とします。「リサイクルすれば解決する」という安易なメッセージは、時に現場の苦労を隠してしまいます。対馬のクリーンセンターで目にしたのは、どれだけリサイクルを頑張っても追いつかない、圧倒的な物量の波でした。
汚れを落とし、素材ごとに手作業で選別し、強度を補うための工程を重ねる。安価な新品を使う方がビジネスとしては合理的かもしれません。しかし、その「効率の良さ」が今の海岸の惨状を招いたという不都合な真実から、私たちは目を背けてはならないのだと思います。環境負荷という「見えないコスト」を価格やサービスに正しく反映させ、お客様と一緒になって持続可能なマーケットの実現を目指すことは、アウトドアをビジネスとするWILD-1の責任であると感じました。
3.「海・里・山」がつながる生態系の危機
対馬の課題は、海洋ごみだけではありませんでした。島の内側では、さらに深刻な連鎖が起きています。対馬の森に入ると、地面から一定の高さまで枝葉が全くない「ディアライン」と呼ばれる光景が広がっています。現在、島内には適正頭数の約10倍以上にあたる約4万5千頭ものシカが生息しており、下草を食べ尽くしてしまっているのです。この結果、森の保水力が失われ、豪雨のたびに土砂が海へと流出します 。
海では海水温の上昇により、温かい海域を好むイスズミなどの魚が活性化し、海藻を食べ尽くす「磯焼け」が加速しています。この40年間で対馬の海藻類の陸揚げ量は99%減少したというデータもあり、まさに海の砂漠化が進行しているのです。「森を守らなければ、海は守れない」。現地で出会った方々の言葉は、自然のすべてがつながっているという、アウトドアを楽しむ私たちが最も理解すべき教訓でした 。
しかし、対馬の現場には絶望だけがあるわけではありません。この困難をビジネスの力で解決しようとする、力強い動きもあります。捕獲されたシカやイノシシを、ただ廃棄するのではなくジビエ料理やレザー製品など地域の財産へと変換する対馬もみじぼたん様の取り組み。また、臭みが強く猫もまたいで通ると言われるイスズミを、内蔵を取り除く際の工夫によって立派な食材に変えている漁師達のアイデア。これらは、行政に依存しすぎず、社会課題をビジネス感覚で解決しようとする新しい活路にみえます。彼らの姿は、私たち民間企業がどのように環境問題に関与すべきかのヒントを与えてくれました。
4.結びに
対馬の海岸でごみの山を前に立ち尽くした経験は、私の背骨を正してくれました。私たちが提供したいのは、単なる「道具」ではなく、その先にある「豊かな自然と共にある暮らし」です。対馬の海が教えてくれた、プラスチックとの正しい向き合い方。プラスチックは悪ではない、それを正しく使い、正しく捨てることができない我々の文化に課題がある。これは、一朝一夕には解決しない難しい課題ですが、お客様と共に考えながら一歩ずつ進んでいきたいと思います。
今後とも、私たちWILD-1の取り組みにご注目ください。
Special thanks
株式会社リングスター様
私たちは「自然を愛し、自然と遊ぶ」ことを提案するアウトドアライフストアとして、日々皆さまに優れたギアをお届けしています。しかし、私たちが愛する「フィールド」が今、どのような状況にあるのか。それを肌で感じるため、2026年3月に長崎県対馬市で開催された「対馬スタディツアー」に参加してきました。
「国境の島」対馬で目撃した、消費社会の歪みと、そこから私たちが踏み出すべき一歩について、レポートをお届けします。
1.絶景の裏側に積み上がる「負の遺産」
対馬の海岸線に降り立った瞬間、言葉を失いました。島の西岸に位置するクジカ浜、遠目には美しく透き通った対馬の海ですが、一歩海岸に足を踏み入れると、そこには色とりどりの、しかし無機質な「ごみの山」がどこまでも続いていたからです。
直径1メートルにも及ぶブイ、漁網、ポリタンク、ペットボトル、空瓶、空缶、洗剤容器、さらにはドラム缶まで。無数の漂着ごみが、浜を埋め尽くしていました。いや、風で飛散したごみが浜だけでなく海岸から数十メートル奥の崖の上にまで及んでいました。そしてごみのラベルなどから、その多くが海外から流れ着いたものだということがわかります。
対馬にこれほど多くの海洋ごみが漂着するのは、島の立地や海流などの地形的な要因によるものです。東シナ海から日本海へと流れる対馬海流は、日本の九州と朝鮮半島の間の狭い海域、すなわち対馬海峡で流れが集中することになります。まるで砂時計のくびれた部分の様に。そして総距離915キロメートルにも及ぶ対馬の海岸線は、その大半が複雑に入り組んだ「のこぎり状」の入り江が続くリアス式海岸です。
その結果として、クジカ浜をはじめ、対馬には年間約3万から4万立方メートルとも推計される膨大な海洋ごみが漂着します。これは、実に25メートルプール約100杯分に相当する量です。急峻な地形が多いために重機によるごみの回収は難しく、対馬市やボランティアの方々の活動により回収できるのは、約8千立方メートルと全体の2割程度というのが現状です。
また、ごみの山の上に立った時、足元の感触が気持ち悪かったことが忘れられません。フカフカと柔らかく、砂を踏んでいるような感覚ですが、実は細かく砕けたプラスチックごみの破片、いわゆるマイクロプラスチックが堆積し、白い地層のようになっていました。 紫外線や波風によって劣化したプラスチックは、一度細分化されると回収はほぼ不可能といわれています。これは人類の痕跡が地質として残る時代の象徴であり、まさに私たちが後世に残してしまっている「負の遺産」そのものでした。
2.アウトドアライフストアとしての責任
ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)といった合成樹脂、つまりプラスチックは軽量で耐久性が高く、私たちが販売している多くのアウトドアギアの主成分でもあります 。
対馬の漂着ごみの大半はプラスチックごみ、いわゆる「オーシャンプラスチック」です。海流にのって、東アジア全域、そして日本国内からも流れ着いたものです。しかし、クジカ浜でゴミを拾いながら痛感したのは、「これは他人の出したごみではなく、私たちが市場に供給している価値の成れの果てかもしれない」という罪悪感に似た葛藤でした。
回収されたごみの「その後」を学ぶため、対馬クリーンセンター中部中継所を視察しました。ここでは、人の手によって回収されたオーシャンプラスチックの一次処理を行っています。例えば、発泡スチロールごみからスチレン油を生成したり、プラスチックごみをリサイクル資源として活用できるように破砕処理を行う等の処理です。しかし言葉にするのは簡単ですが、オーシャンプラスチックを再資源化することは容易ではありません。
長期間、紫外線や水分そして波浪などの物理的な衝撃に晒された「オーシャンプラスチック」は、素材としての強度が著しく低下しています。回収→分別→洗浄を行ってこれを再生するには、通常のプラスチック再生よりも莫大なエネルギーとコストを必要とします。「リサイクルすれば解決する」という安易なメッセージは、時に現場の苦労を隠してしまいます。対馬のクリーンセンターで目にしたのは、どれだけリサイクルを頑張っても追いつかない、圧倒的な物量の波でした。
汚れを落とし、素材ごとに手作業で選別し、強度を補うための工程を重ねる。安価な新品を使う方がビジネスとしては合理的かもしれません。しかし、その「効率の良さ」が今の海岸の惨状を招いたという不都合な真実から、私たちは目を背けてはならないのだと思います。環境負荷という「見えないコスト」を価格やサービスに正しく反映させ、お客様と一緒になって持続可能なマーケットの実現を目指すことは、アウトドアをビジネスとするWILD-1の責任であると感じました。
3.「海・里・山」がつながる生態系の危機
対馬の課題は、海洋ごみだけではありませんでした。島の内側では、さらに深刻な連鎖が起きています。対馬の森に入ると、地面から一定の高さまで枝葉が全くない「ディアライン」と呼ばれる光景が広がっています。現在、島内には適正頭数の約10倍以上にあたる約4万5千頭ものシカが生息しており、下草を食べ尽くしてしまっているのです。この結果、森の保水力が失われ、豪雨のたびに土砂が海へと流出します 。
海では海水温の上昇により、温かい海域を好むイスズミなどの魚が活性化し、海藻を食べ尽くす「磯焼け」が加速しています。この40年間で対馬の海藻類の陸揚げ量は99%減少したというデータもあり、まさに海の砂漠化が進行しているのです。「森を守らなければ、海は守れない」。現地で出会った方々の言葉は、自然のすべてがつながっているという、アウトドアを楽しむ私たちが最も理解すべき教訓でした 。
しかし、対馬の現場には絶望だけがあるわけではありません。この困難をビジネスの力で解決しようとする、力強い動きもあります。捕獲されたシカやイノシシを、ただ廃棄するのではなくジビエ料理やレザー製品など地域の財産へと変換する対馬もみじぼたん様の取り組み。また、臭みが強く猫もまたいで通ると言われるイスズミを、内蔵を取り除く際の工夫によって立派な食材に変えている漁師達のアイデア。これらは、行政に依存しすぎず、社会課題をビジネス感覚で解決しようとする新しい活路にみえます。彼らの姿は、私たち民間企業がどのように環境問題に関与すべきかのヒントを与えてくれました。
4.結びに
対馬の海岸でごみの山を前に立ち尽くした経験は、私の背骨を正してくれました。私たちが提供したいのは、単なる「道具」ではなく、その先にある「豊かな自然と共にある暮らし」です。対馬の海が教えてくれた、プラスチックとの正しい向き合い方。プラスチックは悪ではない、それを正しく使い、正しく捨てることができない我々の文化に課題がある。これは、一朝一夕には解決しない難しい課題ですが、お客様と共に考えながら一歩ずつ進んでいきたいと思います。
今後とも、私たちWILD-1の取り組みにご注目ください。
Special thanks
株式会社リングスター様



















